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今、必要な経済政策とは

2020/05/13
五十嵐 敬喜

◆悪化する感染状況
新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている。4月15日時点で確認された数字※注1を見ると、人口10万人あたりで比較して最も「確認」感染者数が多いのはスペインの367.6人で、以下、イタリア269.2人、米国184.4人と続く。お隣の韓国は20.5人と、欧米主要国に比べて1桁少ない。中国の5.9人と日本の6.0人はさらに1桁少ないのだが、他国と比較して検査数が少ないことが理由だろう。
確認感染者数対比で見た死亡者数の割合(以下「死亡率」)は、フランスの15.2%がトップで、イタリア13.0%、英国12.9%、スペインが10.5%である。死亡者数が2万5千人を超えて世界最多の米国の死亡率は4.3%、中国は4.1%だ。死亡率が低いのは、ドイツの2.3%、韓国の2.1%などだが、日本は1.4%とさらに低い。
ちなみに、国内で初めて感染者が確認された日付を比較すると、上記の国々の中で最も早かったのは日本の1月15日だ。その後、韓国1月19日、米国1月22日、フランス1月24日、ドイツ1月28日、イタリア1月29日、スペインと英国1月31日と続いている。
こうした事実から推測されることだが、感染の開始が早かった日本の実際の感染者数は、確認されている人数に比べて相当多い上に、今後、検査数が増えていくにしたがってさらに飛躍的に増えていく可能性が高いだろう。欧米並みに検査を増やして、韓国並みの低い感染率(10万人当たりの確認感染者数)にとどまったとしても、足元で7,600人強の確認感染者数が10万人を超えていくのは確実であろう。そうなると、亡くなる人の数も現在の100人強から1千数百人※注2にまで膨れ上がりかねない。
現段階では、大型連休が終わる5月6日頃まで自粛を続けようということになっているが、その後は自粛を緩めてもよいという判断が持てるかどうかは、はなはだ怪しい気がする。つまり、経済に及ぼす悪影響は尋常でなく深刻なものになるということだ。

※注1 出所:日本経済新聞。原統計はWHO、各国統計、ジョンズ・ホプキンズ大など
※注2 厚生労働省の専門家チームは、何も手を打たなければ死亡者数が40万人超に膨れ上がるとの予測を発表した(4月15日)

◆悪影響は一時的なものなのか
そうした環境の下で、わが国としてはどんな対策を取ればいいのだろうか。政府は事業規模108兆円という「超大型対策」を決めたが、それをどう評価すればよいだろうか。それで十分なのか、あるいはやりすぎなのか。恣意的に見かけの規模を大きくしているので、これでも不足だという見方すらある。
新型コロナが経済に及ぼす悪影響は、本来的には短期、一時的なものである。突然、工場の操業や人の(国内外の)往来が止まり、商業施設は休業、テレワークも増加して、大勢の人たちが自宅に留まるようになったのは事実だ。しかし「潜在的」な供給能力や需要が落ち込んだわけではない。新型コロナの蔓延が収まれば、経済活動は元に戻る筋合いだ。
問題は、本来は一時的なものであるはずの経済活動の落ち込みが、あまりにも深くかつ予想外に長引くことで、企業倒産が増え、失業が増大したりすると、落ち込みが一時的なもので済まなくなる可能性が高まることだ。したがって、こうした状況で求められる経済対策は、「理不尽な」企業倒産や失業を防ぐ効果を持つものでなければならない。企業が直面しているのは、サプライチェーンの途絶や一時的な人手不足による生産の減少もあるが、企業規模の大小を問わず何より懸念されるのは、売上げの急減がもたらす「資金繰りの逼迫」だ。家計(個人事業主も含む)も、いきなり収入が途絶えることで「現金の払底」(家計の資金繰り逼迫)という状況に陥ってしまう。いずれも企業倒産や家計破綻に直結しかねない問題だ。

◆休業補償は必要か
こうした問題への対策に求められるのは何よりスピードだ。家計に対しては、私は全員(在日外国人を含む)に一律給付(例えば1人10万円)をするのがよいと思う。これだけで予算規模は12~13兆円になる。使われずに貯蓄されてしまうという批判があるが、借金の返済に充ててもよいし(これも貯蓄)、家賃や公共料金の支払いに充ててもよい。使い道は自由でよいのだ。公平さに欠けるという問題もあるが、高所得者については確定申告の際に調整することができるだろう(例えば納税額を10万円増やせばよい)。制度設計に時間をかけるのではなく、まずは素早く資金繰りを支援すべきだ。
中小・零細企業、個人事業主をどう支援するか。自粛を求めるなら休業補償をしろという声は強いが、望ましくないと思う。まずは一律・少額(例えば50万円)の給付金を渡し、あとは借り入れで凌いでもらうのがよいだろう。その場合、金利をマイナスにするとか、返済開始を半年なり1年なり先送りするとか、返済額の全額の費用計上を認めたり、あるいは一部を税額控除にするとか、優遇措置に工夫を凝らせばいいのではないか。
休業補償をしろ、費用は国が負担しろと主張する人たちは、「休業を余儀なくされた人たちの所得を補償すべきだ」と言っているのだが、同時に「その費用は皆で負担しよう」とも言っていることになるのを自覚しているだろうか。そのために「新型コロナ対策特別税」とか消費税に「特別付加税(例えば1%)」が課されても納得するだろうか。おそらく大反対だろう。それどころか、今の苦境を脱するには、消費税率を5%とか0%に引き下げるべきだとすら主張する声が多い。赤字国債を発行すればいいじゃないかという考えなのだろうが、それは将来世代の所得を使って今を凌ごうと言っているのに等しい。
今回のショックは、経済の落ち込み方が尋常ではないだけに、本来は短期的なものだ、などと悠長なことは言っていられない。落ち込みを長期化させない対策が必要だ。そのためには「素早さ」が何より重要だから、シンプルなやり方で対処すべきだ。一律の給付金はその典型だが、やりすぎは禁物。欲張っていきなり誰もが安心するレベルを目指すのではなく、まずは、苦しい人が凌げるようにすることが目標だ。企業の「アニマルスピリット」を失わせるような手厚すぎる対策は望ましくないと思う。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2020年4月16日より転載)

調査部
研究理事
五十嵐 敬喜

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