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AI時代の失業~ミクロとマクロの視点

2019/02/12

オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授は、AI(人工知能)やロボットが将来、どれだけ人間の仕事を代替するかについて推計している。日本については野村総合研究所との共同研究があり、同研究所の上田恵陶奈氏がまとめた報告書(「AIと共存する未来~AI時代の人材~」2017年12月5日)によると、日本ではAIやロボットによって代替される可能性が高い労働人口の割合は49%に達するという。同じ手法で計算したアメリカとイギリスの数値は、それぞれ、47%と35%だ。

これはあくまでAIやロボットで代替される可能性の高い仕事の割合であって、失業率の予測ではない。しかし、もしこの計測値が正しく、そして、代替された仕事に代わる新しい仕事がすぐに生まれてこなければ、失業率は耐え難いほど高くなるだろう。

では、AIの浸透で「大失業時代」は本当に来るのか。
答えは「No!」である。AIやロボットが普及しても、おそらく失業率はそれほど上がらないと思われる。なぜか。それは「ある仕事が代替されるスピードより、別の仕事が創出されるスピードの方が速い」からである。もちろん、技能のミスマッチによる技術的失業はどうしても発生するので、短期的に失業率が上昇する可能性はあるが、一部の識者が懸念するような大失業時代はやってこないだろう。

歴史を振り返ると、多くの筋肉労働が機械に代替され、大量失業が発生した産業革命初期の19世紀初頭、イギリスで「機械打ち壊し(ラッダイト)運動」が発生した。これは大きな社会問題になったが、やがて技術革新が今度は逆に仕事を大幅に増やすようになり、所得を大きく引き上げた。
AI失業についてはどうか。この20~30年、パソコンやインターネット、スマホの普及でコンピュータ化が驚異的に進み、多くの仕事がコンピュータによって代替されたが、それによって失業率が上がったという証拠はない。むしろ、日本やアメリカの労働市場はいまや「超完全雇用」というべき状況にある。
19世紀初めと現代とでは何が違うのか。それは、現代における社会変化のスピードが格段に上がったということだろう。昔は、ある仕事が機械に代替されてから、新しい仕事が生まれるまでの時間が比較的長くかかった。このため、失業が増加した。これがラッダイト運動発生の理由である。
しかし現代は、情報が猛烈なスピードで拡散し、処理される情報革命の最中にある。ある仕事が別の新しい仕事に置き換わっていくスピードは産業革命時代に比べるとおそらく圧倒的に速い。したがって、今この瞬間も様々な仕事がAIやロボットによって代替されているのだが、それに代わる新しい仕事が次々に生み出され、それがヒト不足につながっていると考えるべきなのだ。

AI化が進めば、多くの仕事が奪われるという指摘は正しい。ミクロで言えば、AIによって仕事を奪われた人がスキル不足のために新しい仕事につけないという、いわゆる、ミスマッチによる失業は避けられない。しかし、マクロ的には、それを上回るスピードで新しい仕事につく人が増え続けていると考えるべきなのだ。そうでなければ、昨年末に公表された「完全失業率2.5%」という超完全雇用は説明できない。

現代社会は、AI化のみならず、グローバル化、人口減少、少子高齢化、人生100年時代の到来など、想像以上に大きく揺れ動いており、それに対応するのに必要な仕事への需要は増える一方だ。
重要なのは、AIによって仕事の中身が急激に変わっていく現実を直視し、それに適応するための絶えざる努力なのである。

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