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米中貿易戦争の長期化に備えよ

2019/06/11

トランプ大統領の訪日は無事に終わったが、農産物など、対日貿易圧力は確実に高まったと言える。「8月には日米貿易交渉にかかわる大きな発表があるはずだ」というトランプ大統領の発言は、「もし十分な譲歩がなければ、自動車輸入制限などの制裁もありうる」という脅かしでもある。
そもそも、トランプ政権による対中制裁関税の発動には正当な根拠があるのか。あるいは、あらゆる保護主義政策は不当というべきなのか。いずれの立場をとるにしても、米中貿易戦争に象徴される保護主義の流れは簡単には止められそうもない。米中貿易戦争はまだ始まったばかりであり、長期にわたる可能性が高い。その理由を以下に述べる。 米商務省が発表した2018年の貿易統計(通関ベース)では、モノの赤字が8787億ドル、対中赤字は全体の半分弱を占める4192億ドルと過去最大となった。対日赤字は676億ドルで、中国に比べると圧倒的に少ない。
アメリカから見て許せないのは、対中貿易赤字が30年以上にわたって増え続けているにもかかわらず、為替相場が中国政府の管理下にあるため、ドル元レートが十分に上昇しない点にある。実際、2005年まで続いていた固定相場1ドル=8.28元は、その後、対米黒字が増え続けたにもかかわらず1ドル=7元程度(15%の元高)にまでしか上昇していない。
これに比べると、円相場は1970年代以降、対米黒字が大きくなるにつれて劇的に上昇した。1970年代初めまでの1ドル=360円から1995年の80円割れの水準まで実に80%近くの大幅な円高が起こったのだ。これに伴い、日米貿易不均衡が大幅に縮小したことは周知のとおりだ。元相場が動かず、米中の貿易不均衡を調整できないのなら、制裁関税しかない。これがアメリカの言い分だ。
もちろん、それだけではない。中国の輸入関税は、平均的に言ってアメリカに比べると圧倒的に高い。例えば、中国の輸入乗用車にかかる関税率は15%(2017年までは25%)だが、アメリカの自動車への輸入関税率は2.5%と低い。米中の貿易不均衡がこれほど巨大であるにもかかわらず、「黒字国の関税率の方が赤字国の関税率よりも高い」という理不尽な状態が続いているのだ。これも、アメリカ側からすれば「けしからん」となる。 さらにそのうえ、問題となっているのは国有企業への膨大な補助金だ。この補助金によって、中国製品の競争力が下支えされており、アメリカは補助金を削減するよう、中国政府に改善を求めてきた。
以上で述べた3つの問題、すなわち、為替レートの問題、関税率の問題、国有企業への補助金の問題。これらの問題は根深く、簡単に解決できないため、トランプ政権はやむなく25%の制裁関税を課したわけである。
しかし、常識的に考えて、これらの問題はいずれも中国国内の権力闘争の実態からみて簡単に解決されるとは考えにくい。1年半後の大統領選挙で再選を目指すトランプ大統領としては、強力な制裁関税など、あらゆる保護主義的政策を発動し続けるしかない。
とはいえ、アメリカの保護主義政策が長引けば、アメリカ経済のみならず、世界経済への悪影響は計り知れない。世界経済のサプライチェーン化は想像以上に進んでいる。
では、どうすればよいのか。率直に言って妙案は見当たらない。すぐに解決する問題ではない。つまり、米中の綱引きはまだまだ続くと言わざるを得ないのだ。日本企業としても、長期にわたる米中貿易戦争に備えて、しかるべき覚悟が必要になる。

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