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「絶滅シナリオ」を生き残る条件

2019/10/11

吉川浩満氏の『理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ』によると、地球上に生命が誕生して以来、これまでに生息した生物種の数は50億から500億、現在、地球上に生息している生物種は500万から5000万だという。つまり、かつて地球上に生息した生物のうち、99.9%は絶滅したというのだ。
ダーウィンの進化論の重要なメッセージの一つは、「生き残るのは強い生物ではなく、環境にうまく適応できる生物である」というものだ。そうだとすると、環境にうまく適応できた生物種はわずかに0.1%、すなわち、1000種類の生物のうち、1種類しかいないということになる。これはいったい何を意味するのか。それは、「たしかに環境適応も大事なのだが、それ以上に環境自体が適応できないくらいに劇的に変化した」ということである。 よく引き合いに出されるのは、恐竜の絶滅である。2億数千年前の白亜紀、恐竜はわが世の春を謳歌していた。しかし、突然の隕石落下によって大量の塵が巻き上げられ、分厚い雲となって太陽光を遮るようになった。その結果、寒冷化が進んだだけではなく、何年にもわたって光合成が不可能になった。このため、植物連鎖が崩れ、食べ物が不足し、ほとんどの生物は絶滅した。恐竜もその例外ではなかった。つまり、隕石落下以前の環境には見事に適応していた恐竜も、環境激変によって絶滅してしまったということである。
他方、生き残った生物もいた。前掲の『理不尽な進化』によると、海中深く、太陽光がなくても長期間生息する能力を持つ海洋プランクトンの一種である珪藻類は、この劇的な環境変化をものともせず、生き残ったという。隕石落下による環境変化がなければ、顧みられることもなかった生物が、環境変化によって一躍注目を集めるようになったのである。 ビジネスにおいてもこの話は応用可能だ。たとえば、現在の経営環境にうまく適応していても、それがある日、激変したために倒産の危機に瀕するというケースは無数にある。この数十年の日本経済を振り返っても例には事欠かない。1980年代までは、銀行をはじめ、日本の金融業界は日本経済の主役であった。しかし、1990年代に入って金融市場のグローバル化、金融系列の変質、バブル崩壊による金融再編成など、経営環境が激変した。最近ではゼロ金利が常態化し、従来のビジネスモデルでは収益をあげられなくなった。
実際、劇的なビジネス環境の変化に晒されている産業は多い。その最たるものの一つが自動車産業だろう。電気自動車や水素エンジン車の開発、AIや自動運転、モジュール化への対応など、これまでのような丁寧なモノづくりや品質管理だけでは生き残りが難しくなった。既存の環境への適応というより、環境そのものの劇的な変化への対応力が問われているのである。
企業経営にとって、現在の環境への適応能力はもちろん重要だが、それ以上に重要なのは、予想もつかなかいような劇的なビジネス環境の変化に耐えられる企業体質をつくっておくことではないだろうか。そのために重要なのは、組織の柔軟性とそれを支える人材の多様性である。

環境の劇的変化に耐えられずに恐竜は絶滅したが、新たな環境に適応した珪藻類は生き残った。つまり、現在の環境下で能力の高い人材だけを集めるだけでは不十分ということだ。環境が劇的に変われば思いがけない能力を発揮できる人もいる。だからこそ、本当の意味での「人材の多様性」が必要になる。自社の採用が「金太郎飴的」になっていないか、見直しが必要ではないだろうか。

【参考文献】吉川浩満『理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ』(朝日出版社、2014年)

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