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自治体の企業誘致戦略を考える

2008/06/16
永柳 宏

 地域の歳入・雇用拡大のため、企業誘致に期待する自治体が多くなっている。北海道・東北、九州では、自動車・同部品工場を、第2の公共事業としてとらえ、企業本社に足繁く通う自治体担当者も少なくない。自治体の持つ企業誘致のイメージは、文字通り、”誘致”であって、企業を連れてくるという戦略と理解されている。自治体の担当者も、地域の工業団地や生活環境の情報発信を行い、遠くの企業にアプローチを行うことに注力する。
 しかし実際に立地した企業のプロフィールをみると、自分の街や、隣の街であることが多い。工場立地のうち、県内企業からの立地は、全国平均で約7割であり、県外からの立地を大きく上回っている。自治体にとって、外部からの大型誘致は魅力的ではあるが、案件数からみれば「企業誘致」よりも「企業定着」の取り組みが基本になろう。
 今、なぜ企業は、隣接する場所へ工場展開をするのか。従来の工場立地は、労働力と土地を求める投資活動であり、新たな工場は分工場として広く内外に展開する形になった。しかし近年は、「集約化・高度化」を目的とする投資に変わっている。大都市圏への工場立地が拡大していることも、こうした要因が背景にある。安価にモノをつくる工場は、中国、タイ、ベトナム等へ海外進出する一方で、付加価値の高く、開発サイクルの短い商品を作る工場は日本に回帰するといった動きである。そのため、国内の新たな工場は、研究開発部門や企画部門を備え、熟練した従業員がいる「母工場」と呼ばれる拠点工場に近い場所への立地を指向する。できれば、母工場の拡張を図るなかで投資をしたいと考えている。工場従事者の不足といった状況も、既存工場の従業員が、無理なく通勤できる近い場所に工場を造る動機になっている。
 こうしたなかで、自治体の企業誘致は、今後さらに、域内の企業に目を向ける必要が出てきている。「今の工場敷地の手狭感はないか」、「投資意欲はどうか」、「駐車場、従業員宿舎は十分か」といった地域の企業のきめ細かい情報収集を積極的に行う必要がある。また、工場跡地の情報をいち早くキャッチし、市内からの拡張移転を促すといったことも必要である。
 華々しい企業誘致の話題が報道される一方で、大都市圏では、宇治市の日産車体、浜松市のホンダ、ヤマハ、スズキなど、市外への工場転出が大きな問題となった。市内に優良な事業者がいれば、まちがいなく県外の自治体から企業誘致の話が持ち込まれているはずである。企業の担当者に聞くと、”来るのは他県の職員やトップばかりで、お膝元の自治体からはまず来ない”というコメントが寄せられる。”灯台下暗し”の解消が、自治体の企業立地戦略の基本である。
 企業誘致には”スピード”が大切であると言われるが、そのためには、地域企業の設備投資の動きに対して、常日頃からアンテナ(職員自身がアンテナです!)を高くし、工場拡張・移転への備えをしておくことが、最も必要なことである。

研究開発部
地区本部副本部長
永柳 宏

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