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本格的な取組みが望まれる病院勤務医の負担軽減策

2009/08/24
田極 春美

わが国において医師不足による医療崩壊の危機が叫ばれるようになって久しい。この間、政府は、大学医学部定員枠の拡大(平成20年度と21年度において1割を超える大幅な増員をした。22年度も増員予定)や、医療従事者間の役割分担の見直し、診療報酬の病院への重点的配分など、その対策に次々と取り組んできた。だが、具体的な効果はなかなか見えてこない。
ところで「医師不足」というのは実は正確な表現ではない。厚生労働省『平成18年医師・歯科医師・薬剤師調査』によれば、昭和61年から平成18年の20年間をみても医師数は増加の一途を辿っており、昭和61年度に19万1,346人であった医師数は、平成18年度には27万7,927人と45%も増加している。では、医師不足とは何か。これを端的に整理すると、(1)地域間の偏在、(2)診療科間の偏在、(3)病院・診療所間の偏在が挙げられる。この偏在問題の他、最近では、女性医師増加による就業医師数の減少も指摘されており、女性医師のワーク・ライフ・バランスをどう確立するかが医師不足解消を図る上で重要な課題となってきている。
こうした状況を受けて、社会保障審議会医療保険部会・医療部会の両部会は、「現在、産科や小児科をはじめとする医師不足により、地域で必要な医療が受けられないとの不安が国民にある。医療は地域生活に欠くべからざるものであり、誰もが安心・納得して地域で必要な医療を受けられるよう、また、地域の医療従事者が誇りと達成感を持って働ける医療現場を作っていけるよう、万全を期す必要がある」と述べ、『平成20年度診療報酬改定の基本方針』(平成19年12月)では、「医師確保対策として、産科や小児科をはじめとする病院勤務医の負担軽減を重点的に図ること」を緊急課題として位置付けた。
この結果、具体策として、平成20年度診療報酬改定では、地域の急性期医療を担っている病院に対する「入院時医学管理加算」の新設を始め、勤務医の事務作業を補助する「医療クラーク」を配置した場合の「医師事務作業補助体制加算」の新設、産科医療を重点的評価した「ハイリスク分娩管理加算」の大幅引上げなどが行われた。これらの診療報酬上の加算を算定するためには、病院は「病院勤務医の負担の軽減に資する計画」を策定し、職員等に周知していることが要件として求められる。中央社会保険医療協議会の診療報酬改定結果検証部会では、この改定結果を検証するため、平成20年秋に、これらの加算を算定している病院とその病院に勤務する医師に対してアンケート調査を実施した。この調査結果をみると、医師の1か月当たりの平均当直回数は、1年前と比較してやや減少したものの、救急科、産科・産婦人科、小児科では依然として高い水準となっている(図表1)。また、1週間の実勤務時間については、勤務医全体の平均が61.3時間であるのに対し、救急科医師では74.4時間と長時間勤務となっている。このように、勤務医の職務環境は依然として厳しく、1年前と比較した勤務負担についても「変わらない」と回答した医師が49.8%とほぼ半数を占めた上、「どちらかというと悪化した」と「悪化した」を合わせた割合(34.8%)が、「改善した」と「どちらかというと改善した」を合わせた割合(14.3%)を大きく上回る結果となった(図表2)。この調査が勤務医の負担軽減計画に取り組んでいる病院を対象としたものであることを踏まえると、他の病院における勤務医の負担軽減はなおのこと、期待しにくい状況といえる。
診療報酬は病院に対する報酬であるため、勤務医の経済面の処遇改善にただちに直結するものではない。しかし、病院の収入が増え、その収入で新たに医師を確保することができれば、医師1人1人の勤務負担を軽減していくことが可能になる。医師を増員できなくとも、経済面での処遇改善を図れれば、勤務医の開業医志向に多少なりとも歯止めがかかるだろう。このような点を踏まえれば、勤務医の負担軽減策の一環として、今後も診療報酬を病院に重点的に配分していく取組みが強く望まれる。

図表1 常勤医師1人あたり月平均当直回数(診療科別)

常勤医師1人あたり月平均当直回数(診療科別) (出典)厚生労働省「診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成20年度調査)『病院勤務医の負担軽減の実態調査報告書』」

図表2 1年前と比較した勤務状況

1年前と比較した勤務状況(出典)厚生労働省「診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成20年度調査)『病院勤務医の負担軽減の実態調査報告書』」

社会政策部
主任研究員
田極 春美

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