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育児短時間勤務の義務化-正社員の働き方見直しに

2009/08/31
平田 薫

育児短時間勤務制度の導入が義務化に

 6月24日の改正育児・介護休業法の成立により、3歳未満の子どもを持つ労働者への短時間勤務制度(1日6時間)の導入と残業免除が義務化されることになった。同法は一部を除き(注1)、公布日である平成21年7月1日から1年以内に施行される。
 これまでは、企業は(1)短時間勤務の制度、(2)フレックスタイム制、(3)始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、(4)所定外労働をさせない制度、(5)託児施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与のいずれかの措置を講じればよかったが、今後は、業種や職種によらず、全ての事業主にとって短時間勤務制度は措置義務となり、残業免除は労働者が請求すれば認めなくてはならないものとなる。違法行為に対する厚生労働相の勧告に従わない企業名は公表され、虚偽の報告をしたり報告を怠った者等には過料が課せられるという罰則付きだ。

義務化による問題の顕在化

 義務化となると、制度未導入の企業だけでなく、「既に導入済み」という企業でも、問題が顕在化して頭を抱えるところが出てくると予想される。これまでは短時間勤務の希望者を「短時間勤務しやすい」部署や職種に配置転換させることで対処してきたり、「一時的なことだから、みんなでカバーして頑張ろう」と言って、増員や仕事の見直しをすることなくやってきた企業が、今後はそれでは立ちゆかなくなるからだ。すでに先行している企業では、短時間勤務者の増加に伴い、特定の部署への集中に限界が出たり、配置転換先がなくなる状況が生じている。また、第二子、第三子の出産・育児に利用する人も出ているが、そうなると短時間勤務の期間が10年近くに及ぶことになり、とても「一時的だから我慢して」では本人も周りも済まなくなる。仕事への意欲があり、スキル向上やキャリアアップに前向きだった人ほど、「短時間勤務しやすい」ルーティンワークに回されて働く意欲をなくしたり、逆に「周囲に負担をかけている」ことに耐えられず辞めてしまう傾向も見られ、企業からは「制度が活かされていない」との嘆きも聞かれる。

制度導入・拡充にあたっての企業の取り組み課題3つ

 短時間勤務制度を導入・拡充していく際の企業の取組課題は大きく3つある。(1)仕事の見直し(業務分担、職務権限等)、(2)賃金・評価の見直し、(3)能力開発の見直し、である。
 (1)は、短時間勤務を希望する人の仕事を棚卸しする中で、短時間正社員にはできない仕事(逆にいうとフルタイム正社員でないとできない仕事)があるか、あればそれは何かを精査し、フルタイム正社員、短時間正社員、パートタイマー等の役割分担を検討することである。さらには既存の仕事をそのまま再分担するのでなく、短時間勤務が可能になるよう仕事の進め方を見直したり、不要な仕事を削減すれば、生産性も大きく向上する。
 (2)は、短時間正社員についてフルタイム正社員とバランスの取れた賃金を検討することである。両者の間に、仕事や責任等の違いに基づかない不合理な賃金の差があってはならない。仕事が同じで時間が短いだけであれば、フルタイム正社員の給与をベースに時間比例で支給するのが原則である。また、評価制度や評価基準をフルタイム正社員と共通にし、働きぶりをきちんと評価する一方、目標管理において短時間勤務では達成できないような目標を設定しないことが大事だ。そして最も重要なのは、短時間正社員を適正に評価できるよう考課者を訓練することである。
 (3)は、短時間勤務によるOJTの機会(量)の減少を考慮し、必要に応じて遅れを取り戻す措置を講じたり、Off-JTについて短時間勤務でも受講できるよう設定することである。また、短時間勤務中もキャリアを継続できるよう、なるべく元の職場・職種で働けるようにすることが重要である。これまで培ったスキルやキャリアが活かせなくなるのは、本人だけでなく企業にとっても損失だからだ。

短時間勤務制度の検討は、フルタイム正社員の仕事を見直すこと

 これら取組課題をみて分かるように、短時間勤務制度を検討することは、フルタイム正社員の仕事や働き方、賃金・評価を見直すことに他ならない。課題に取り組む際にハードルが特に高いのは、長時間労働が恒常化している企業や職場である。たとえば(2)について、本来ならば所定労働時間が2時間短い分に比例して基本給を減らせばよいところ、残業が恒常化していると「8分の6」では本人も周りも納得しにくい。また、定時で帰ることさえ躊躇われる職場で短時間勤務を続けるのは苦痛である。
 逆に短時間勤務が職場や職種を問わず普及している企業もある。その企業に「秘訣」を聞いたところ、トップが「定時で帰る社員を評価しろ」と言い続け、フルタイム正社員の時短と意識改革を進めてきた流れのなかで取り組んだことが大きいとのことだった。
 短時間勤務制度の義務化をきっかけにフルタイム正社員の働き方を見直し、人材の定着と生産性向上を図るか、その場しのぎの導入でフルタイム正社員・短時間正社員双方の不満を溜め、人材流出につながりかねない結果となるか。企業の競争力のかかった分かれ目ともなる。フルタイム正社員の働き方の見直しに踏み込んでこそ、短時間勤務制度導入に成功するだけでなく、企業としての生産性の向上と従業員のワークライフバランスの推進という2つの果実を得ることができるであろう。

「短時間支援ナビ」で導入事例を紹介

 当社は厚生労働省の委託を受けて、本年度、「短時間正社員制度導入支援ナビ」(http://tanjikan.mhlw.go.jp)の企画・運営を行っているところである。同サイトでは、短時間勤務制度を導入しようという企業の支援を目的に、制度の概要や取組事例、導入手順等についての情報提供を行っている。シフト勤務のある職場や営業職等については「短時間勤務制度は導入しにくい」という企業がある一方、導入に成功している企業もある。先述の「制度導入・拡充にあたっての企業の取り組み課題3つ」を踏まえた導入事例を紹介してく予定なので、ぜひご参照いただきたい。

(注1)100人規模以下については3年以内。

経済政策部
主任研究員
平田 薫

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