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日本農業弱体化の要因と活性化のあり方

2009/11/24
森口 洋充

 農林水産省が発表した平成20年度の食料自給率は41%となり、2年連続で上昇することとなった。41%という値は平成9年以来の高水準であるが、これは国際食料価格の高騰によって輸入量が減少したことによるものであり、国内農業の生産面が強化されたことを示しているものではない。実際に、実質的な国内農業のシェアを示す生産額ベースの自給率はこの2年間で3ポイント低下しており、農家の1戸当たり平均農業所得は百万円強に留まっている。このような現状の元、本稿では日本農業の低迷の要因と活性化の方策について私見を述べることとする。
 戦後、農地解放により全国に零細な農家が生まれた。日本が貧しく、食糧増産が急務であった時代には、農村に多くの労働力を投入し、土地生産性を高めるという方法は妥当性があったといえる。しかし、その後経済発展と共に都市部の所得が増加していく中で、農業の分野においても労働生産性を高め、農業から得られる所得を向上させる必要があった。日本の稲作の場合、基盤整備や機械化などにより労働生産性は向上したが、その結果、農業生産をやる気のある農家へと集約させるのではなく、余った時間を農業以外に振り向けることで所得を高めていった。その方向に向かわせた主たる要因は米の高価格維持政策である。米価を本来の市場価格よりも高く維持することで、本来であれば農業をやめて、他の職業に就くはずであった農家までが米の生産を続けることになったのである。結果として、稲作の生産性向上はスローダウンすることとなった。そして、1994年に食糧管理法が撤廃されたことにより、(生産調整は残るものの)米は実質的に自由競争となって米価は大きく下落した。生産構造の変化が起こっていなかったところへ、米価のみが急激に下落してしまったことにより、農村地域が急激に弱体化してしまったのである。
 一方で、専業農家が中心である野菜生産に関しても価格の低迷が生じている。その主要因は、輸入野菜(加工済みも含む)の増加である。もともと日本では、各地域で特色のある野菜生産を行ってきた。しかし、大手スーパーマーケットチェーン等による大規模流通が主流になるのに併せて各地域は大産地化し、それらをリレーさせることで消費地に対して季節に関係なく野菜を供給するようになってきた。それに伴い、流通のしやすさや品質のバラツキの少なさ、クセの無い食味等が重視されるようになり、各地の特色が失われるようになってきたのである。一方で、消費者とのコミュニケーションにより旬や調理方法、産地の特性などを伝えるという役割を担っていた八百屋や果物屋が減少し、セルフ形式の販売形態になったことで消費者の受ける情報は値札だけとなり、価格のみが重要な購買の要素となっていった。その結果、輸入野菜が増加する中で差別化する要素が少なく、価格が低迷することになったのである。
 このように農業の生産現場の弱体化が進む中で、農業を活性化させるためには、多様な担い手の創出と地域の特色を生かした農業生産が必要になると考えられる。多様な担い手として想定されるのは、企業による農業参入と兼業農家の活用であろう。現在、農地を直接借り受けることができない等の制約はあるものの、一般企業が農業に参入することが可能になっている。確かに、これまで農業に携わってこなかった企業がすぐに利益を出せるほど農業は甘いものではない。実際に、参入したもののすぐに撤退して地域が混乱してしまっている事例も見受けられる。しかし、企業にはこれまでの農業関係者が持っていなかった新たな視点や経営ノウハウ、ネットワークがあるのも事実である。現在では、一般企業の参入は遊休農地対策の色彩が濃く、優良農地での生産ができていない地域が多いが、企業を地域の担い手と位置付けて積極的に活用していくことで地域全体の活性化につながる可能性はある。また、企業側も農業単体で利益が出せるものと期待して参入するのではなく、例えば食品製造業者が食材を自ら生産するなど、本業の付加価値を高めることを念頭において参入することが望ましいと考えられる。
 一方で、日本の農業の低生産性を象徴する兼業農家であるが、実質的に日本の農業生産を支えているのは、これら兼業農家である。特に稲作では、農業生産を行う農家だけでなく、例えば草刈りや水路の浚渫など地域全体で支え合って成立している場合が多い。兼業農家が農業から離れてしまうと、彼等は都市部へと移動し、農村社会自体がさらに弱体化してしまうであろう。従って、これら兼業農家に農業を継続し、地域に居住してもらうためにも、彼等をうまく活かしていく手段を考える必要がある。例えば、地域全体でのゾーニングにより、ほ場の面積が広く生産性の高い農地は担い手農家や企業に任せ、周辺部の山がちな地域などを兼業農家に任せるといった方法も考えられる。そして、生産性の低い農地へ移ってくれた兼業農家に対しては十分な補助金を支払うのである。また、機械経費が兼業農家の大きな負担になっていることに鑑み、兼業農家向けの比較的小型の機械のレンタルや共同利用をすすめるといった施策も考えられる。
 また、もう一度地域の魅力を見直して、地域の特色を生かした農業生産を行っていくのも重要である。ただし、単に地域性のある産品を生産するだけでなく、その売り方も考える必要がある。産品を大規模流通に乗せただけでは、いずれ価格低下圧力に負けてしまう可能性が高い。例えばその産品を用いた郷土料理の調理方法とセットにする、加工品にして販売するなど、消費者が最終的にそれを消費する形でのプロモートや、その産品の歴史や地域性、独自性など、消費者がそれを購入したいと思うストーリーとセットにしてのアピール等を検討していくことが必要であろう。

環境・エネルギー部
主任研究員
森口 洋充

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