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プラーヌンクスツェレ:住民参加の新手法の可能性

2010/01/12
大塚 敬

住民参加型まちづくりのこれまでの経緯

 地域における政策づくりや事業の実施方法・内容などの検討、選択に際して、「住民参加」「住民との協働」の重要性が早くから指摘され、さまざまな手法が実践されてきた。自治体では、行政運営に住民の声を活かすために、アンケートやヒアリング、意見・提案の公募、タウンミーティングや意見交換会、ワークショップ等の審議・検討組織の設置など、多様な方法により住民意見の収集・反映につとめてきた。
 特に、ワークショップ等の住民による検討・提言組織の設置は、住民が主体的に考え、住民同士で議論して取りまとめた意見を直接行政に提言することができる点で、アンケートやヒアリング、意見公募などと比較してより踏み込んだ参加の形態であると言える。
 近年では、自治体において総合計画や分野別計画などを策定する際に、何らかの住民による検討組織を設置し、その提言を計画に反映するという手順を導入する例は珍しくなくなった。

従来型の住民参加の代表的手法とその問題点

こうした、現在多くの自治体で導入されている、住民による検討組織の一般的な特徴は概ね以下のようなものである。

  • 対象者は公募、すなわち本人の立候補にもとづいて選定される
  • 学識経験者やコンサルタントが会議運営や提言の取りまとめを支援する
  • 原則としてボランティアであり参加報酬はない

 このような住民による検討組織の設置は、住民のニーズを反映したまちづくりの有効な方策であるが、次に述べるような問題点もしばしば指摘される。
 まず、第一に、本人の立候補にもとづいて対象者が選定されている以上、そこで取りまとめられた意見は地域住民全体の平均的な意見とは一致しない。もっと言えば、特定の考え方を有する集団が組織的に立候補した場合、この集団の意見が検討組織の提案に色濃く反映されてしまう懸念が常にあるということである。
 第二に、行政から委嘱された学識経験者やコンサルタントが会議運営や提言の取りまとめを実質的に主導するケースがしばしばあり、こうしたケースでは間接的に行政の意向が反映され、純粋な住民の意見とはいえなくなってしまうということである。
 そして最後に、参加者が地域全体の視点で考えることができず、個人的な利害や好悪の感情による意見や判断に傾いてしまう懸念が常にあるということである。

プラーヌンクスツェレの概要

 ここまでに述べた、これまでの住民による検討組織が抱える問題点に対する一つの解決策として、近年急速に注目されている手法に、プラーヌンクスツェレというドイツで生み出された住民参加手法がある。プラーヌンクスツェレは、特定のテーマに対して提言を行う住民による検討組織の設置・運営手法である。前述した日本で一般に行われているものとの違いを中心にその特徴を整理すると以下の通りである。

  • 対象者は無作為に抽出された候補者に主催者(自治体)から参加を要請する。
  • 少人数のグループで討議し、一つの討議テーマに対し、原則として1~1.5時間程度で必ず結論を出す。
  • 主催者(自治体)は討議の手順や討議対象分野の現状など情報提供のみを行い、討議は住民だけで行う。討議を行うグループ内では、司会や記録係など必要な役割は全て住民が分担して行う。
  • 参加報酬を支払い、仕事として責任をもって取り組んで頂く。
  • グループはセッションごとに組み替え、役割や立場など参加者相互の関係の固定化を防ぐ。
  • グループごとに取りまとめられた提案を全グループで共有し、全員の投票により優先順位を付ける。

 ワークショップ方式等の従来型と比較するとまだ多くはないが、自治体が主催して、総合計画や分野別計画の策定プロセスへの住民参加手法としてプラーヌンクスツェレ方式の検討組織を設置する例も、三鷹市や船橋市など一部で見られはじめている。

プラーヌンクスツェレの長所

 プラーヌンクスツェレ方式による検討組織が、従来のワークショップと比較してどのような長所を有しているかを整理すると以下の通りである。

意見の代表性、中立性

 無作為抽出で候補者が選定されるため、関心はあるものの自ら市民参加機会を探して応募するほどには積極的では無い人々も、候補者として指名で要請されれば参加しようという気持ちになる可能性がある。これにより、公募方式では参加しなかった人まで参加の輪が広がり、市民参加の裾野の拡大につながると考えられる。

主体的に成果を求める討議姿勢

 有償であることから仕事として責任をもって取り組まなければならないという意識が芽生え、さらに決められた時間内に必ずグループでの合意形成を図らなければ成果が残らない、という緊張感の中で討議が行われるため、陳情型の言いっぱなしの意見ではなく、主体的に成果を残そうとする姿勢での討議がなされる。

地域全体の視点にたった意見

 討議後、全参加者による投票で支持率を明確にするため、自分達の意見が地域全体にとって適切か、より多くの人に支持されうる提案であるかが意識され、個人的な利害や好悪の感情からでなく、地域全体の視点にたった討議がなされる。

実践にあたっての留意点

 プラーヌンクスツェレは、日本においては新しい手法であり、本格的な実施例も豊富ではないため、日本のまちづくりに活用した際の実践的課題が明確にされているわけではない。ここでは、筆者が実際に支援業務に係わった実例の経験から留意すべきと考える点を述べるが、必ずしも普遍的な論点ではなく、対象とするテーマや地域性などによっては、あてはまらない場合もあると考えられる点に注意して頂きたい。

完全なる代表性、中立性確保は困難

 候補者は無作為抽出で選定することが可能だが、参加要請に応じる人々は、従来の公募方式と同様で高齢者と主婦が多く、20歳代から50歳代までの男性が圧倒的に少なくなりがちである。特定集団の組織的応募による意見の偏りを避けることは可能だが、地域社会の縮図といえる性年齢構成の参加者確保までは難しい点に留意が必要である。

複雑な事項の検討やじっくりアイディアを練る作業には不向き

 無作為抽出でより地域社会の平均像に近い人々の参画を促すためには、開催日数を抑制せざるを得ず、それにより1回の討議も1~1.5時間程度で結論を出すという方法にならざるを得ない。
 このため、事業計画の検討において複数のたたき台となる案から最適な案を選択する場合や、総合計画や分野別計画などの策定において基本的な方針や方向性、重点を置くポイントを決定する場合など、選択や判断に重点がある検討には適している。しかし、複雑な事項を精査し評価する場合や、これに対する詳細な対応策を提案する場合など、じっくりアイディアを練ることには不向きである点に留意が必要である。

突出した意見や奇抜なアイディアを求める検討には不向き

 限られた時間でグループごとに合意形成を図り、グループごとの提案に対する支持率を全員の投票により明らかにして優先順位を付ける、という手法の特性から、参加者全員の総意としての意見を把握し、その母集団である地域全体の意見を推し量る検討材料を得るためには有効な手法である。しかし、このことは裏を返せば、この手法は突出した意見や奇抜なアイディアを抽出しづらいことを示しており、個性的で独自性の高い戦略の検討には不向きである点に留意が必要である。

事務局によるしっかりした段取りとツールの準備が必要

 1回の討議ごとに1~1.5時間程度で結論を出すという検討方法は、前述の通り時間が限られているという緊張感が主体性を生み出す効果がある一方、時間的な余裕が全くない中で合意形成まで辿り着けるようにするため、事務局は適切なテーマ設定や時間配分などのしっかりとした段取りと、討議を円滑に進めるためのツールの準備を十分にしておかなければならない点に留意が必要である。

今後の展望

 プラーヌンクスツェレは、意見の代表性・中立性や地域全体の視点にたった意見の質の高さなど、従来の市民参加手法と比較して多くの長所を有しており、今後急速に普及し、わが国のまちづくりのさまざまな場面で活用されるものと思われる。
 ただし、その実践に際して留意すべき点も少なくなく、検討課題の内容や性質によっては最適な手法とはならないケースも想定される。各地域のまちづくりに携わる人々が、この手法の特性を良く理解し、効果的に活用することができれば、住民参加型のまちづくりを一歩前進させることができると考えられる。

公共経営・地域政策部
上席主任研究員
大塚 敬

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