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イノベーション実現に向けた新たな視点

2010/02/08
美濃地 研一

あふれかえる「イノベーション」

経済学者シュンペーターによって提起されたイノベーションの類型は、「新製品の開発」、「新生産方式の導入」、「新市場の開拓」、「新原料・新資源の開発」、「新組織の形成」とされている。これらによって、経済発展や景気循環がもたらされるという主張は、閉塞感が続く、日本のような社会において、一縷の希望をもたらす非常に魅力的なものと感じられる。また、その意味するところが幅広く、さまざまな場面や状況において、適用することが可能であるため、イノベーションという名称のついた政策や施設があふれかえる状態になっている。

どうやってイノベーションを実現するか

政策や施設の名称にイノベーションをつけることに比べ、実際にイノベーションを生み出すということは大きな困難を伴う。「どうすれば、イノベーションを起こすことができるのか」という問いかけに対する明確な答えはどこにも用意されているわけではないからである。
もちろんこのコラムの中においても、答えを提示することができるわけではないが、イノベーション実現に向けた新たな視点を提起したい。すでに30年近い年月が経過しているが、アメリカの未来学者アルビン・トフラー氏が、著書「第三の波」(注1)の中で、生産者 (producer) と消費者 (consumer) とを組み合わせた造語である「プロシューマー(生産消費者)」という言葉を用いていることを思い出した。これは、生産者・供給者側が、複雑化した消費者のニーズをくみ上げ、消費者の望むものを提供することが難しくなる中で、その解決策の1つを指し示しているものと考えられる。

ユーザー中心のイノベーション

経営学におけるイノベーション研究においても、従来は生産者主導で、イノベーションが生み出されるとされてきたが、近年は「ユーザーがイノベーションを起こす」とする研究成果が示されている。アメリカでは、マサチューセッツ工科大学のエリック・フォン・ヒッペル教授が、「民主化するイノベーションの時代」(注2)の中で、ユーザー中心のイノベーションの重要性はますます高まっていることを指摘している。世界の大企業(3Mやネスレ、ゼロックスなど)が採用する実践的技法「リード・ユーザー法」を紹介している。
また、国内では、マサチューセッツ工科大学でヒッペル教授の指導を受けた神戸大学の小川進教授が著書「イノベーションの発生論理」(注3)の中で、イノベーションが発生する場所の多様性とその多様性を説明する要因に関する言及し、製品開発活動とメーカー以外のイノベーションの担い手との関連や、情報の粘着性といった問題についての議論を掘り下げている。そして、同教授の「競争的共創論」(注4)においては、消費者、流通事業者、メーカーが渾然一体となってイノベーション創出に参画している状況を示している。

「プロユーザー(pro+user」」の時代

イノベーション研究の系譜や現代社会の状況を勘案すると、イノベーションは、幅広い属性の人々が関与し、その結果として生み出された新たな価値と考えることができる。
トフラー氏の指摘に倣って考えるとすれば、イノベーションの実現には「pro+user」とカギを握っていると言えるのではないか。先行研究でも明らかなように、イノベーションに参画するのは、消費者だけではなく、流通事業者、取引先などを含めた幅広い意味での「消費者」である。このため、現代の状況に合わせて言うとすれば、consumerの部分をuserという言い換えるほうが、より適切ではないかと思う。

ユーザー主導のイノベーションをめざすプロジェクト

大阪駅北地区(通称:梅田北ヤード、国鉄梅田貨物駅跡)の開発の先行開発区域(7ha)の中で整備される「ナレッジ・キャピタル(床面積82,300平米)」(注5)は、「世界中から多様な人々が結集し、先端技術と高い感性を融合させることにより、新たな知的財産を創出する」「ナレッジ・キャピタルは都心という立地を生かし、消費者の厳しい評価を受けるとともに、さまざまな人々の交流を通して、技術と感性を融合させ、豊かな未来生活の実現」(注6)する場をめざしている。
まさに、「pro+user」によるユーザー主導のイノベーションを起こすための仕組みづくりを目指しているといえる。2012年度の開業にまでにどのような仕組みが備えられ、その後、どのような成果が生まれてくるのか、楽しみにしたい。


(注1)「第三の波」アルビン・トフラー 著 徳岡孝夫 監訳(1982年、中公新書・中央公論新社)
(注2)「民主化するイノベーションの時代」エリック・フォン・ヒッペル著、サイコム・インターナショナル訳(2005年、ファーストプレス)
(注3)「イノベーションの発生論理」小川進著、(2000年、千倉書房)
(注4)「競争的共創論―革新参加社会の到来」小川進著(2006年、白桃書房)
(注5)2009.06.01 サーチ・ナウ:梅田”ビッグバン”~変貌を遂げる関西の一等地~
(注6)「大阪駅北地区先行開発区域プロジェクト」より引用

研究開発第2部
主任研究員
美濃地 研一

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