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日本らしいホスピタリティで中国人観光客の増大へ

2010/07/05
妹尾 康志

 平成11(1999)年に9,232,365人であった中国人出国者は、平成20(2008)年には45,840,000人と約5倍に達している(注1)。これは同年の日本人出国者15,987,250人の3倍近い規模であり、世界中の観光に携わる人々にとって無視できない存在となってきた。また、中国人旅行者はその旅行中消費額が他国旅行者に比べて大きいとされ、わが国も含め、世界中がその呼び込みに本腰を入れているところである。
 本稿では、近年における中国人観光客の動向を整理した上で、今後もわが国の観光地が選ばれるためにできることについて考えたい。

外国人観光客数の目標達成に向けた鍵は中国にあり

 わが国では「観光」というと遊びのイメージが強かったため、ほんの10年も前であれば、観光を戦略産業として論じると、冷ややかな視線を浴びるような状況であったが、現在では、観光立国推進基本法によって、21世紀における重要な政策の柱として位置付けられるなど、観光に対する政策面での意識は大きく変化した。この法律に基づいて策定された観光立国推進基本計画では、平成18(2006)年に733万人だった訪日外国人旅行者数を平成22(2010)年までに1,000万人にすることを目標とし、将来的には日本人の海外旅行者数と同程度を目指すとなっている。今年以降の計画目標としては、3年ごとに500万人ずつを増加させ、平成31(2019)年に2,500万人、将来的には3,000万人と発表されている。
 このように、わが国でも外国人観光客の誘致に積極的に乗り出してきたところであるが、中規模~小規模の国一つ分の人口(注2)にあたる数の訪日観光客を数年で増やすという計画であり、そのための取組は並大抵のものではない。特に、韓国、台湾、香港といった訪日観光客の定番といえる近隣の国・地域においては既に訪日率がある程度まで高まっており、ここから上乗せして大幅な増加を図ることは難しい。また、欧州や米州等の国々においては、日本までの距離の壁もあって、やはり大幅な増加を図ることは難しい。そのため、近隣にあって世界最大の人口を有し、訪日率もまだ高くない中国の存在は、この目標を達成する上では非常に大きな意味がある。

拡大の余地はあるが、過大な期待は禁物

 中国人の海外旅行は、昭和58(1983)年に香港、マカオへの旅行が可能となったことを皮切りに、135か国・地域(注3)への旅行が承認されている。渡航目的も、当初はいわゆる親族訪問目的のみに制限されていたが、平成9(1997)年に法の整備が図られたことを受けて団体観光旅行、個人観光旅行へと緩和が進み、旅行先、訪問目的ともに多様になりつつある。その結果、冒頭にも述べたとおり、中国人出国者数は平成11(1999)年から平成20(2008)年で約5倍となり、現在も年10%以上のペースで増加して世界でも有数の観光客送出国となっている。
 わが国への団体観光旅行は、平成10(1998)年の韓国、平成11(1999)年のオーストラリア、ニュージーランドに次いで平成12(2000)年から解禁されている。比較的早い時期から中国人観光客を受け入れてきたわが国だが、当初は北京市、上海市、広東省の中国三大都市圏のみが対象で、徐々に緩和されて平成17(2005)年からは中国全土が対象となった。また、平成21(2009)年には条件付きながら中国三大都市圏の富裕層にはわが国への個人観光旅行が解禁され、添乗員も不要となったことから、プライバシーを重視する傾向の強い富裕層にとって、訪日旅行を普通に楽しめる環境が整ってきた。これらの取組もあって、新型インフルエンザや金融不況の影響で平成21(2009)年の外国人入国者数は-17.1%と大幅に減少したなかでも、中国人入国者数は2.0%増加して1,236,250人に達した(注4)。これは入国者数10万人以上の国/地域では唯一であり、中国人観光客の受け入れについては今後も拡大が期待できる。
 このようななか、平成22(2010)年からは、中国主要都市の中間層にも個人観光旅行が認められることが発表され、訪日旅行者が一層増加することが各方面で期待されている。ただし、平成21(2009)年の個人観光査証発給数は7,688であって、査証発給数754,817の1%程度にしかすぎず(注5)、現時点ではまだまだ、団体で定番の行程をたどる観光が中心であることには留意が必要である。また、中国人旅行客は旅行中消費額が他国に比べて非常に大きいとして注目を浴びており、金額は調査によっても異なるが、他国に比べて2倍等の景気のいい数字が報道されている。ただし、日本政府観光局の調査結果では旅行中消費額は127,605円で米国、香港、英国に及んでいない。物品購入費は78,680円で最大だが、香港の76,829円、台湾の69,692円を引き離すほどではない(注6)ことにも留意が必要であろう。
 そのため、中国人観光客が増加しても、人気商品(電器製品、化粧品、ブランド衣類等)の販売店のほかには、効果が実感できない可能性がある。また、これまでに当社が協力した調査からは、中国人旅行者による消費額の数値はかなり個人差があり、富裕層とそれ以外で大きな差があるという感触を得ており、各種調査による中国人観光客の消費額の数値が大きく異なるのはそのためと考えられる。人民元の弾力化によって購買力が上昇する可能性もあるが、今後個人観光客が富裕層から中間層へも拡大することで、物品購入費も現状より平均値では低下する可能性も指摘でき、観光客数はともかく観光消費額については過大な期待は禁物とも考えられる。

中国人観光客増加に対応して、日本ならではの取組を

 中国人をはじめとした外国人観光客の増加に向けて、まず何に取り組めばよいのかという質問は多い。バリ島では本来ヒンドゥー教の神々だったお土産の彫像が、中国人観光客の好みに合わせようとしすぎて中国仏教の彫像に変化したという例も報道されている(注7)が、これは観光本来の意味からいって明らかに好ましくないだろう。
 日本政府観光局の調査によれば、中国人観光客が滞在中に最もよかった点は「日本人の親切さ、礼儀正しさ、日本人とのなんらかの触れ合い(交流)ができた」であり、一方で最も失望した点・不便な点は「言葉が通じないこと、標識等の不足」であった(注8)。日本人のもつホスピタリティが大きな感動に繋がっていることがわかる。わが国最大の玄関口、成田空港の免税店等において、中国語での応対が可能である旨の表示がなされたことをご存じだろうか。海外で慣れない外国語を使って大まかな情報しか得られずに不安のあるなかで買い物するのとは異なり、母国語で詳細を相談して理解した上で買い物できることは、大きな安心感と高い満足度に繋がる。非常に細かな気配りではあるが、自分が海外旅行に行った際のことを思い出せば、非常にうれしい対応であると想像できる。基盤整備のような多額の投資も不要であり、前述の調査結果における良い点を活かして、悪い点を改善した好例であろう。
 かつて、世界中の観光地に集団で出没したり、有名ブランドをジャパンマネーで買い漁ったりして話題となった時代を経て、近年では日本人も幅広い観光行動を示すようになってきた。中国人も同じように今後は行動を変化させ、物品購入費から宿泊費や飲食費、観光費等へと費用をシフトさせていくことが見込まれる。わが国ならではのホスピタリティあふれる取組の積み重ねは、訪日客の満足度を高め、本人や友人・家族による将来の訪日へとつながるだろう。これは、中国人をはじめとした外国人観光客が、わが国の多彩な魅力を見いだし、今後も訪日観光を選択するきっかけになるものと期待される。


(注1)日本政府観光局「日本の国際観光統計」
(注2)国際連合「世界の人口推計(2008年度版)」で世界人口を掲載230国・地域で除すると約3,000万人。
(注3)日本政府観光局「JNTO国際観光白書2009」(平成21年8月現在の数値)※含香港、マカオ向け出国
(注4)法務省入国管理局「平成21年における外国人入国者数及び日本人出国者数について(確定版)」(平成22年3月12日)
(注5)外務省領事局「中国人への個人観光査証」(平成22年5月18日)
(注6)日本政府観光局「JNTO訪日外客消費動向調査2007-2008」(平成21年3月)
(注7)TheFinancialTimes”Chinesetouristsheadfortheshops”June09,2010
(注8)日本政府観光局「TIC利用外国人旅行客の訪日旅行動向調査報告書」(平成20年11月)

公共経営・地域政策部
主任研究員
妹尾 康志

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