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特許制度はどこへいくのか?

2010/08/03
渡部 博光

日本の特許制度は、明治4年に布告された専売略規則に始まる、歴史ある制度である。いま、その伝統ある特許制度は大きな見直しの時期に入っている。問題の一部をかいつまんで紹介したい。
特許はなんのために与えられるのか?学説的には、特許権を与えることにより、技術開発にインセンティブを与えるという解釈が通説である(注1)。わが国特許法1条にも特許法の目的として「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」とある。そして、その権利の内容として、技術という無形の情報に対し、侵害品を差し止める権利や損害を賠償する権利を認めている。そこには、技術の社会的な効用を踏まえた、技術を開発する行為への尊重と、さらにいえば、科学技術を振興すれば、おのずと産業が開けるという考え方が基礎として存在していると思われる。
しかし、科学技術に対する投資については、技術開発の膨大なコスト負担がはたして産業振興、事業収益へどの程度貢献できているのかといった費用対効果が疑問視され、中央研究所の終焉、オープンイノベーションという言葉で象徴される通り、技術開発コストの軽減のために、国、企業において、大きな見直しが進んできていることはよく知られているところである。
特許制度もその流れの影響を大きく受けており、伝統的な特許管理も変化を求められている。企業における特許管理において問題になる休眠特許であるが、実務的にはクロスライセンスという形で間接的に活用されており、特許取得でR&D活動を活性化させ、さらに無償で他社の権利を活用できるというメリットがあった。それが、費用対効果の問題から事業に直接活用できない特許を保有することが問題視され、特許が技術開発主体から他の主体に金銭譲渡される動きが加速した。その結果、パテントトロールに代表される、技術の事業化を行わない主体による権利行使が生じ、このような主体は製造業ではないため、クロスライセンスが使えず、金銭的な解決が図られることになり、企業収益に思わぬ損失が生じることから問題となっている。
当然、特許制度も見直しが求められてくる。焦点の一つは、権利の効力である。オープンイノベーションによる特許の流通を前提とすれば、事業を差し止めるような強大な権利を、すべての特許権に与えることが妥当なのか?特許流通を前提にするのであれば、権利の効力を弱めてもよいのではないか?などの議論が進められており、その動向が注目されている。しかしながら一方では、現在のわが国の特許制度は権利保護が不十分であり、技術開発へのインセンティブが弱く、期待された機能を果たしていないという指摘もあり(注2)、特許の使い方、機能など、特許制度のあり方が根本から問題となっている。これまでの伝統的な使い方をする、古い知財から、オープンイノベーションを前提とするような、活用のための知財である、新しい知財がせめぎあっているのが、現在の特許制度だと表現する向きもある。
経済産業省では、この新しい知財を、ソフトIPを呼び、研究会を実施するなどしている(注3)。また、特許活用の促進等のための法改正を目的とした、特許制度研究会も昨年度実施されたところである(注4)。特許制度はどこへいくのか、大きな歴史的節目を迎えているのかもしれない。


(注1)中山信弘「工業所有権法(上) 特許法」弘文堂
(注2)相澤英孝「危機を迎えている特許制度」L&T No.47(2010年4月)
(注3)ソフトIPは、奈須野太、伊達智子「オープンイノベーション時代の知的財産制度(ソフトIP)の提言」L&T No.45(2009年10月)、伊達智子「環境・エネルギー技術等の普及に向けた新たな知的財産制度(ソフトIP)研究会の概要」NBL  915(2009.10.15)で解説されている
(注4)特許制度研究会の内容は、「特許制度に関する論点整理について―特許制度研究会報告書-」特許制度研究会(2009年12月)(特許庁HP)にまとめられている。また、特許制度研究会報告書についての実務家の解説として片山英二、服部誠「「特許制度に関する論定整理について―特許制度研究会報告書-」の概要と今後の課題」L&T No.47(2010年4月)がある。

環境・エネルギー部
副本部長
渡部 博光

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