1. ホーム
  2. レポート
  3. レポート・コラム
  4. サーチ・ナウ
  5. 制度改正の中での居宅介護支援事業所の今後について

制度改正の中での居宅介護支援事業所の今後について

2010/12/24
善積 康子

 次期介護保険制度の見直しにおいて、「日常生活圏域単位での地域包括ケアの体制構築」がテーマとなっている。一つ大きな転換点となるのが、施設対在宅の整備比率に関する参酌標準(注1)が撤廃されることである。施設入所を希望し待機状態となっている市民は少なくない。しかし介護報酬の高い施設をどんどん作ってしまうと保険料が上がってしまう。これまで、国の参酌標準を盾に施設整備に制限をかけていたとしても、その理由が無くなり、自治体の裁量で整備方針を判断することが求められるのだ。つまり、保険者である自治体は、健全で持続可能な保険財政を構築しつつ市民のニーズに応えるため、高齢期に在宅で安心して生活できる状況を本気で整えなければならない、ということである。
 居宅介護支援事業所は要介護者が介護サービスを受ける際に必要なメニューを、要介護度や本人の要望等を聞きながらプランとして組み立てる仕事をする。いわゆる、サービスと本人をつなぐコーディネーターだ。要介護者の家庭事情、住宅事情を最も良く把握し、悩みを解消する支援をしながらお財布事情にあったプランを作成するということは、地域に住む高齢者事情に最も通じている人ともいえる。ただ、その経営状況は決して楽ではない。一時、一人のケアマネジャが100人近くの要介護者を担当して、相当に収益を上げていた時期もあったが、100人もの要介護者を訪問し、適切にプランを組み立てることは簡単にできることではなく、平成17年の制度見直しで厚生労働省より35人目安というルールが課された。実質報酬減算の対象となるのは40人以上であるが、これも当初は、40人以上受け持つと担当している全員のプランが減算の対象となった。今は40人を超えた部分からの減算対象に修正されているが、それだけ国からは厳しい目線があるということだ。
 居宅介護支援事業所の事業収支をシミュレーションしてみると、地域や給与額にもよるが、支援員3名(うち1名は管理者兼務)では、おおむね30人前後/支援員の顧客を毎月確保すれば事業的には成立する。ただ、この人数を毎月確保することが実は難しい。居宅介護支援事業所はケアマネージャの資格を取得すれば、事業所を開設することはそれほど難しくないため、介護支援事業所が認定者に比して多いことが要因の一つとして考えられる。利用者を確保するために、事業所の母体である社会福祉法人や医療法人との連携を重視しグループ内の事業所が実施しているサービスばかりをプランにいれたり、ケアプランを独自に作成する小規模多機能型居宅介護への連携を躊躇したり、などの行動が見られるようになった。この対策として、厚生労働省は、小規模多機能型への連携加算や、特定事業所集中減算などを導入して牽制をしている。
 経営が苦しい別の理由として人材が定着しないという実態がある。今の制度改正は、居宅介護支援事業所の時間的・経済的な負担が増える方向にあり、結果として、時間や給与等にしわ寄せがいって、質の良い人材が転職し、できる人材が不足していく。新しい人材は効率的な業務遂行がすぐにはできず、さらにできる人にしわ寄せが行くなどで勤務環境が悪化して離職する。こんな悪循環も経営を圧迫する要因となる。
 一方で、地域で要介護者を支える仕組みの確立がこれからの介護保険制度を支えるのだとすれば、個人の介護のありようを決める居宅介護支援事業所には、単なる事業者としてではなく、サービスを活用しながら生活全般をみて要介護者の自立を支え、複雑な制度説明も対応でき、インフォーマルな資源も把握した福祉のコーディネーターとしての役割を期待できる。大阪府には、コミュニティ・ソーシャルワーカーという仕組みがある。これは、制度の狭間や複数の福祉課題を抱えるなど、既存のサービスでは対応困難な事案に対応するために、民間福祉施設の職員などが委託され地域ネットワークの中で問題解決にともに動くというものである。福祉制度は複雑で利用しづらい、どこに相談したらよいか分からない、という地域福祉の担い手の声に応える仕組みである。このような役割を居宅介護支援事業者も担えないだろうか。
 現在は、他の事業との併設型などで生き残るか、撤退するか、といった後ろ向きになってきている事業者が多いが、介護の重度化、障害のある高齢者や若年性の認知症、精神疾患的な症状、厳しい家族関係など困難事例が増えているなかで、困難事例に精通した地域密着型の人材として、福祉・医療の総合的な相談窓口となり、将来的に地域福祉の担い手として行政からの委託を受けることがあってもよいのではと思う。また事業の持続性を考え、事業者には、先ずは事務所ならびにサービス提供エリアの状況を客観的に把握・分析すること、そして地域の高齢者の趣味嗜好を把握し、介護サービスだけでは埋められないニーズに対するサービスをビジネスとして提供したり、雇用人材のやりがいづくりや事務処理の効率化を進めるなど、戦略ある展開を期待したい。

研究開発第1部
主席研究員
善積 康子

関連レポート

レポート