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大阪都構想で改めて注目される大都市制度改革

2011/12/20
大塚 敬

1.はじめに

 大阪市の橋下新市長率いる大阪維新の会が大阪府、大阪市の両首長戦を制したことで、同会が掲げる大阪都構想が現実味を帯びてきた。一方、大阪市に限らず、我が国の大都市はこれまでも大都市制度改革の必要性を国に訴え続けて来た。
 本稿では、こうした我が国における大都市制度改革全体の流れの中で、大阪都構想がどのように位置づけられるかを概観した上で、大阪都構想の推進に伴う国を巻き込んだ動向の見通しと、大都市制度改革全体が今後どのような方向に進む可能性があるのかについて考察する。

2.大都市制度改革に係るこれまでの経緯

(1)大阪都構想が打ち出される以前の経緯

平成10年代後半の三大都市の取り組みの概要

 大都市制度改革は議論が近年特に活発化したのは平成10年代後半である。大阪市では「新たな大都市制度のあり方について」(平成15年8月)、さらにこれを具体化させた「新たな大都市制度のあり方に関する報告II」(平成18年3月)、名古屋市では「道州制を見据えた『新たな大都市制度』に関する調査研究報告書」(平成19年2月)、横浜市では「新たな大都市制度創設の提案に向けた検討の方向性」(平成19年11月)と、この時期には三大都市がそれぞれの考えに基づいた研究やアピールを行っている。その後平成20年度にこれら三市合同による「大都市制度構想研究会」が設置され、「日本を牽引する大都市 ―『都市州』創設による構造改革構想―」(平成21年2月)の共同提言がなされた。

取り組みの背景1 平成の大合併による政令指定都市の位置づけの変化

 三大都市がこのような活動を活発化させた主な背景として、政令指定都市の位置づけの変化が挙げられる。平成の大合併より以前の政令指定都市は、三大都市圏(横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市)と各地方圏の中心地(札幌市、仙台市、広島市、福岡市、北九州市)にしかなかった。このため、政令指定都市は、我が国において三大都市圏の中心的都市と地方圏の中枢を担う都市に適用されている制度、と見ることができた。しかし、平成の大合併と指定要件の緩和などにより、政令指定都市は現在の19市となり、三大都市圏の中心都市や地方圏の中心地以外にまで拡大した。このため、新規に指定された人口規模や都市機能集積などが小さい都市と最も大きい横浜市とでは、人口規模だけを見ても最大約5倍の較差があり、これらを同じ制度で扱うのは不適切であるというのが、三大都市が大都市制度改革の必要性を訴えている第一の理由であると考えられる。

取り組みの背景2 道州制論議の高まり

 もう一つの背景として、当時道州制論議が活性化していた点が挙げられる。道州制に係る国の検討は、民主党への政権交代により現在は一段落してしまっているが、自民党政権下の平成20年3月には、担当大臣の下に設置された懇談会の報告として、平成30年までに道州制に完全移行することが明確に打ち出されていた。前述の政令指定都市の位置づけの変化などもあり、三大都市の取り組みには、こうした自治制度の大変革を好機と捉えて、望ましい大都市制度改革を自ら提言し勝ち取っていこうという狙いがあったものと思われる。

当時の三大都市共同提言の方向性は「都市州」

 平成21年2月に横浜、大阪、名古屋三市共同で打ち出された大都市構想は、「都市州」という概念であった。道州制導入の可能性を見据えたこの概念は、他の都市とは人口規模も都市機能集積度も格段に異なる三大都市には道州と同じ権限と財源を与え、2層ではなく、国の直下に置かれた1層の地方公共団体だけで地方自治を行うというものである。

(2)大阪都構想が打ち出されてから今日までの経緯

大阪の「都構想」への転換と他政令指定都市による「特別自治市」の提案

 大阪では、平成22年3月、当時の橋本府知事が大阪維新の会として大阪都構想を発表した。周知の通り、大阪都構想の概要は、大阪府とともに大阪市、堺市を廃止し、東京都及び特別区をモデルとする大阪都に再編するというものである。
 一方、平成22年5月に政令指定都市の市長からなる指定都市市長会は、「新たな大都市制度の創設に関する指定都市の提案」として「特別自治市」という概念を新たに打ち出している。「特別自治市」は都道府県と同格の権限と財源を持つといった点は3大都市共同で打ち出した「都市州」と同様だが、指定都市市長会という提案母体の性格上、広域自治体との関係や周辺市町村との連携のあり方は多様な形がありうる、としている。
 さらに、首都圏と、大阪市を除く近畿圏の政令指定都市7市(横浜市、川崎市、相模原市、千葉市、さいたま市、京都市、神戸市)からなる「指定都市7市による大都市制度共同研究会」が平成23年10月に発足、平成24年11月までに提言をまとめるとされており、三大都市圏の大都市は、独自路線を行く大阪とそれ以外で異なる方向性で議論が進められる様相を呈して来ている。

3.大阪都構想と三大都市圏の他都市の大都市制度の共通点と相違点

 両構想とも現時点で具体的な制度が明確にされているわけではないが、現時点の構想の内容で判断できる範囲で、両者の主要な共通点と相違点を整理すると以下の通りである。

共通点 1層制への転換とより小さな単位での住民自治の仕組みの再構築

 両構想とも、都道府県の管理下から脱し、都道府県と同等の自治体とする1層制を明確に打ち出している。また、よりきめ細かい住民サービスを充実させる観点から、従来よりも細かい区域や組織に権限・財源を移譲していくなど住民自治の仕組みを強化する方向性を打ち出している。

相違点 広域自治体主導と基礎的自治体主導、公選首長の有無、自律性

 上記で整理した共通点のうちの前者の1層制への転換の手法として、「大阪都構想」は大阪市、堺市を廃止した上で、広域自治体として大阪府を大阪都に改めて大阪圏中心部を一元的に管理するものであるのに対し、「特別自治市」は既存の各市を道府県の管轄からはずし、地方自治体が有する権限を一元化するものである。つまり、「大阪都構想」は広域自治体による1層制、「特別自治市」は基礎的自治体による1層制である点が決定的に異なる。
 また、共通点の後者のきめ細かい住民サービスの充実についても、「大阪都構想」では大阪市と堺市を廃して大阪都の1層制にした上で、それらの地域に20程度の特別区を設け、公選の区長を置くこととされており、現在の市より細かい領域を対象に、一定の自律性をもつ自治・行政組織を設置する方向性であるといえる。これに対し、「特別自治市」における取り組みについて横浜市を例に取ると、「横浜市大都市自治研究会」の平成23年8月時点の資料によれば、現在の行政区の権限・財源の拡充と地域自治組織の導入が打ち出されている。少なくとも区はあくまで市の内部機関であって区長は公選することは打ち出されておらず、

4.先行モデルとしての東京都区制度の現状と大阪都構想が目指すべき姿

東京における都区制度改革の経緯

 大阪がモデルとしている東京都区制度の位置づけや役割は、これまで大きく変化してきた。特別区は、かつてはあくまで都の内部的団体として位置づけられ、一般の市町村と比較して非常に多くの権限を都に委ねていた。その後、平成12年度の地方分権改革で市に準ずる基礎的な地方公共団体として位置づけが改められたことを契機に、東京都から区への権限移譲が進められており、現在もその検討と調整は継続している。

大阪が都構想の具体化に向けて参考にすべき点

 この東京都から区への権限移譲について、地方自治の大原則とされる「補完性の原理」(可能なことは出来る限り自己決定・自己責任のもとに行うべきとする考え方)から言えば、住民により近い特別区に可能な限り権限・財源を移譲することが望ましいということになる。しかし、その考え方を過度に推し進めると、今度は特別区制度の本来の目的(通常は市町村が処理する事務のうち、人口が高度に集中する大都市地域では一体性及び統一性の確保の観点から一体的に処理することが必要な事務は都が処理する、という考え方)が損なわれてしまうこととなる。東京都における都区制度改革は、長く議論と制度の見直しがなされてきた今、住民へのきめ細かいサービスと一体性、統一性が両立しうる、都と特別区の権限のバランスについて、現在の環境下において最適と考えられる答えを見出すべき段階にきているといえよう。
 大阪都構想は特別区を新たに設置することを出発点としている。このため、こうした東京における都区制度改革の将来像を先取りして、都と特別区の権限の最適なバランスの取れた制度設計を行うことが最も重要である。

5.今後の見通し -大都市制度改革や広域自治体のあり方に関する議論の活発化-

 既に様々に報じられている通り、大阪都構想の実現には、各道府県から「都」に移行する手続きに関する規定を新たに設けるなど地方自治法の改正が必要となる。このため、既にみんなの党は「大阪都構想」実現のための地方自治法改正素案を平成23年12月に公表、これを平成24年の通常国会に提出するとしている。この素案では、大阪府だけでなくどの府県でも都への移行を申請することが可能となる制度が想定されている。
 同党の案に限らず、新たに府県を都に移行するための法制度を整備するとすれば、当然にそれは大阪だけが特別に適用されるものとはならないだろう。つまり、大阪都構想が実現すれば、他の大都市地域にも同じ可能性を開くことになる。そして、既に述べた通り、都構想とは異なるが、他の大都市もそれぞれの立場で大都市制度について取り組んできた経緯がある。このため、大阪都構想が国政の場で議論される段階になれば、その議論は大阪だけでなく他の大都市にも波及することになるだろう。
 特に、横浜市をはじめとした三大都市圏の大都市は、これまでの精力的な取り組みを考えれば、これを好機として取り組みをさらに活発化させることは想像に難くない。そして、これらの都市が主張する特別自治市も同様に実現するためには地方自治法の改正が不可欠であり、こちらも導入に向けた機運が高まれば国は対応を迫られる事となる。
 前述の通り、市を廃止する都構想と、対象地域を広域自治体の管轄権から除外する特別自治市のどちらが議論の主流となるかは、大阪の例でも明らかな通り、それぞれの組織や首長のどちらが市民の信頼を得ているかによって自ずと変わってくる。今後、三大都市圏など各地域でこうした議論が活発化し、国政をも巻き込んだ議論が高まっていくと考えられる。また、こうした議論を契機に、道州制についても改めて議論が活発化する可能性もあり、大都市に限らず、広域自治体のあり方に係る議論が全国的に活発化していくと考えられる。

 

公共経営・地域政策部
上席主任研究員
大塚 敬

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