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シェール革命と米国中東政策の変化

2013/05/23
織田 博嗣

北米にて現在進行中の「シェール革命」により、米国は、近い将来、世界最大の石油・天然ガス産出国になるとともに、石油・天然ガス純輸出国になると予測されている。この結果、中東へのエネルギー依存度が減少することから、米国は、中東への関与度合を大幅に縮小させると予想されるようになってきている。しかし、果たしてそうなるであろうか。

米国が中東に関与する目的としては、1)中東からの米国への石油・天然ガス供給を安定させる、2)同盟国であるイスラエルの安全保障を確保する、3)西側同盟国・貿易相手国の経済的利益(エネルギー安全保障など)を確保する、4)イランなどの敵対国・テロリストによる脅威を縮小させる、といったことが挙げられる。シェール革命により、1)の必要性は大幅に減少するが、2)~4)の関与目的は、依然として残ったままである。

米国が、1)の目的が薄れた際に中東から撤退すべきという大きな理由として、「米国は、膨大な借金、ならびに資金の当てのない膨大な負債(社会保障、医療, 年金等)があり、いつかこれを解消するための決断に迫られる。その際、国内政策と外交政策のどちらかを犠牲にしなければならなくなるが、国内政策が優先される可能性が高い」ということが挙げられている。しかし、この問題は、シェール革命が成功すれば、ある程度緩和されると考えられる。即ち、シェール革命により、今まで輸入していた石油・ガスを輸出するようになるわけであるから、米国の経常・財政赤字の縮小、強いドルの回復などにつながることになる。さらに、安価な天然ガスを活用できることなどから製造業の復活にもつながり、さらなる収支改善が見込まれることとなる。

もう1つ米国が中東から撤退すべき理由として、対中東対策から対中国対策へのシフト(いわゆるリバランス)の必要性を指摘する識者も多い。対中国対策(たとえば、中国包囲網の形成)の目的としては、1)同盟国の経済的利益の確保(中東からの石油・天然ガス輸送ルート、即ちシーレーンの防衛など)、2)同盟国の安全保障の確保、3)東アジアなどを巡る米中覇権戦争への対応、といったことが挙げられる。もしこれに失敗すれば、たとえば、中国が東シナ海・南シナ海などにおける支配権を拡大すれば、シーレーンを中国が押さえることになり、アジアにおける米国の覇権が崩れるとともに、東南アジアなどの国々が中国の影響下に入ってしまうと考えられている。しかしながら、現在のところ、同地域における米国の海空軍力は、中国のそれを圧倒しており、近い将来に東アジア地域などにおいて中国が覇権を握るということはほとんど想像できない。長期的に中国の海空軍力が相対的に向上したとしても、それは日米同盟の強化などによりある程度対応でき、また、そうしたことが起こるとしても、かなり先のことと考えられる。

従って、長期的に米国の関心が中東からアジアへ徐々にシフトする可能性があるとしても、短中期的には米国が中東からの関与を減少させることはないのではないか。そもそもアジアにおけるシーレーン防衛といっても、中東が不安定化し石油や天然ガスが輸入できなくなってしまえば意味がない。米国の財政が危機的に悪化でもしない限り、米国の中東への関与はずるずると続いていくことになると考えられる。

米国が中東から撤退できないもう1つの理由としては、中東問題が極めて複雑であり、今後の展開が不透明であるため、撤退へのきっかけをつかみにくいということも指摘できる。たとえば、最近、レバノン南部地域を実質支配するシーア派民兵組織のヒズボラがアサド政権の反政府勢力攻撃に加担していることが発覚するとともに、イスラエルがアサド側からヒズボラへの武器流出を恐れ、シリアの軍事施設を爆撃したことが明らかになった。ヒズボラは、今後このようなことがあれば、同じシーア派であるイランと協力し、イスラエルに宣戦布告することを明言している。また、イスラエルは、かねてより、イランが核開発を中止しない限りイランの核製造施設を一方的に爆撃すると宣言している。近々行われる予定のイランの大統領選挙の結果にもよるが、イラン、シリア、ヒズボラなどのシーア派連合の出方によっては、イスラエルや、イランやアサド政権と対立する湾岸諸国(サウジ、カタールなど)の安全保障のため、米国が戦闘行為に訴える場面も出てくると考えられる。もしこうした状況下で米国が中東から撤退すれば、上記で挙げた中東関与の目的は全て達成できないことになってしまう。また、こうした緊迫状況(中東の不安定性)が将来的に緩和するという見通しは全く立っていない。

このような情勢(即ち、長期的に見てアジアへのシフトが徐々に進む可能性があり、また財政事情から米国が中東から撤退することもあり得るものの、短中期的には米国の中東関与が続くという状況)の下、日本はどのように対応すべきであるか。1つ目の対応策は、米国が中東プレゼンスを低下させる前に(あるいはそうしたリスクを想定して)、中東への関与度合を拡大することである。具体的には、あらゆる分野で産油国との関係強化に努めるとともに、中東和平にも貢献できるだけの外交力を身につけることである。2つ目は、対米関係をより強化することである。これには、中国への対抗のため日米同盟を拡充することの他、シェール革命の恩恵に預かりエネルギー調達源を多様化するため、米国からのLNG輸入を促進することなども含まれる。3つ目は、対ロ関係の改善である。ロシアが、シェール革命によりだぶついた自国の石油・天然ガスの販売先をアジアに求めていること、資源依存経済から脱却するため先端技術を導入したがっていること、中国に脅威を感じ始めていることなどを踏まえると、日本は、今、ロシアとの関係を強化する絶好のチャンスにあると言える。ロシアとの関係強化は、(上手く振る舞わなければ米国の反発を買う可能性もあるが、)エネルギー調達の手段を多様化することのみならず、国際社会における日本のプレゼンスを高めることにもつながり、将来的に、日本が、中東和平交渉などの国際舞台において重要な役割を担う機会を得ることや、中国封じ込めのための有効なカードを手にすることにも結びついていくのである。

持続可能社会部
主任研究員
織田 博嗣

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