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対談:東京オリンピック(4)企業主導によるサステナビリティの実現

2015/01/28
本橋 直樹 日本2020戦略室

当社内横断的組織「日本2020戦略室」のご紹介

2020年の夏季オリンピック・パラリンピック競技大会の東京開催が決まり、大会企画運営、施設整備、会場周辺のまちづくり、海外からの観光客誘致、スポーツ振興、各種キャンプ地誘致等、さまざまな取り組みが動き始めています。当社は、多様で幅広い専門性を持つ研究員や、外部専門家とのネットワークを活用して、関係者の皆様の取り組みをお手伝いいたしております。
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■はじめに

このシリーズでは、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けて、持続可能性(サステナビリティ)課題に取り組む方々にお話を伺います。第4回は、スポンサー企業による取り組みについて、キャサリン シモンズ-ムーア氏とサイモン・ルイス氏に伺いました。

■サステイナブルな大会の実現に向けて‐LOCOGとコカ・コーラ社の協働

本   橋: 今日は、ロンドン大会の際にスポンサー企業のサステナビリティ戦略に異なる立場から参画されたお二人からお話を伺いたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。
ムーア氏: 私は現在、サステナビリティに関するコンサルタント会社であるサンクロフト社で働いていますが、ロンドン大会当時はコカ・コーラ社で働いていました。
ルイス氏: 私はロンドン大会時にはWWFの立場でサステナビリティに関する仕事に関わりました。コカ・コーラ社との関係では、私は同社に対するサステナビリティに関するアドバイザーチームの一員であり、ムーア氏はコカ・コーラ社の私のメインコンタクト先でした。
本   橋: ムーア氏は、ロンドン大会のサステナビリティ戦略に関連して、どのような役割を担われたのですか。
ムーア氏: 私は、2009年5月から3年半に渡り、コカ・コーラ社のHead of Sustainable Gamesとして、ロンドン大会における同社のサステナビリティ・プログラムを統括していました。私の役割はコカ・コーラ社の管理職チームと連携し、社内で合意されたサステナビリティ目標を関係各部門で実施していくことでした。特に現場のオペレーションチーム と密接に仕事をし、例えば、会場に置く冷蔵庫をフロンガスを含まないものとすることや、輸送トラックをバイオ燃料車とすることなどの取組を確実に実行しました。私のチームのスタッフは三人だけで、予算も比較的少額でしたが、オペレーションチームの40人、さらに大会中には500人のスタッフ全員にサステナビリティに関する研修を実施し、実践してもらいました。
本   橋: ロンドン大会に対し、サステナビリティの面では、コカ・コーラ社はどのような関与をしたのですか。
ムーア氏: LOCOG(注1)は、「オリンピック史上最大のサステナビリティ施策を取る。」という目標を持っていました。また、これとは別にコカ・コーラ社は独自に、「サステナブル企業であり続ける。」との目標を持ち、Live Positivelyという戦略を確立し、スポンサー企業の中で唯一サステナビリティを担当する専門チームを組織していました。同社は1920年代以来継続してオリンピックのスポンサーとなり続けていて、多大な知識を蓄積しており、オリンピックがどのように機能するか分かっていました。コカ・コーラ社は、サステナビリティという共通の目標の下、LOCOGと強力なパートナーシップを築き、サステナビリティだけでなくオリンピック全体の観点からLOCOGを支援する役割を果たしました。
ルイス氏: コカ・コーラ社とLOCOGの良好な関係構築の背景には、二つの素地があったと思います。一つ目は、コカ・コーラ社がロンドン大会時には「最もサステナブルなオリンピック・スポンサー」の地位を既に確立していたことです。2006年、2008年、2010年の夏季・冬季大会では、オリンピック委員会の支持を得て、コカ・コーラ社は、オペレーション面だけでなく、消費者に対するマーケティングでもサステナビリティを意識した活動を増やしていました。二つ目は、ロンドンが、2012年の開催都市選定の段階から「ロンドンは、2012年の大会を史上最高にサステナブルな大会にする。」と宣言していたことです。宣言の実現に向けたLOCOGの積極的な姿勢とコカ・コーラ社の既存のサステナビリティ戦略の融合が、良い結果に結びついたと思っています。
ムーア氏: LOCOGは6社をサステナビリティ・パートナー(注2)に指定しましたが、実は、コカ・コーラ社はその6社には含まれませんでした。既にサステナビリティを基盤としている企業として認められていたので、追加のスポンサー費用を払ってサステナビリティ・パートナーになる必要がなかったのです。ちょっと皮肉ですが、正式なサステナビリティ・パートナーよりも、コカ・コーラの方が本格的なサステナブル企業とみなされたと、誇りに思っています。
ルイス氏: このLOCOGによるサステナビリティ・パートナーシップ・プログラムの導入は、良い取り組みだったと思います。民間企業を積極的にサステナビリティへの取り組みに関与させるというLOCOGのスタンスが内外に良く示されましたし、LOCOGには追加スポンサー収入が入り、パートナー企業も企業イメージの更なる向上等が図られ満足していました。

 

■リサイクルの推進に加え、飲食の提供でもサステナビリテイを重視

本   橋: サステナビリティに関する取組の一環として展開された”Food Vision”についてもお聞かせ頂けますか。
ムーア氏: Food Visionは、食の提供においてサステナビリティを最大限考慮しようとする取り組みです。ロンドン大会では、何もないところから始めて、草案を作るという過程を経たので、その準備に1年程かかりました。食品業界に対しては、最低限満たすべき基準である「ベースライン基準」と、達成することが望ましい「目標基準(aspirational standards)」の2種類が示され、関係者は「目標基準」を達成するよう奨励されました。私はこれら基準の作成に関してLOCOGの担当者と数か月にわたって打ち合わせを重ねました。極めて詳細にわたる個別基準が設定されました。例えば、卵や魚は具体的にどの種類を用いるべきか、包装にはアルミ箔やラップは使わないなどです。これら個別基準は、LOCOGが決定して上から押し付けるのではなく、全て関係者の合意の下に設定されました。サステナビリティの取組については、英国のケータリング業界、特にレストランはしばしば無視をするなど遅れていましたが、オリンピックを契機に関係者の意識の引上げが一気に行われたわけです。主要な関係者のサステナビリティ戦略の必要性についての認識度は、国によってかなり違います。ですが、ロンドンがその認識度の水準を引き上げました。一度上がった水準はもう引下げられません。世界が監視しているからです。サンクロフト社は既にコカ・コーラ・リオと対話を開始しており、ロンドン2012の教訓を学び生かしてもらおうとしています。
本   橋: コカ・コーラ社が独自に展開したプログラムにはどんなものがありますか?
ムーア氏: よく知られているプログラムは、地元住民へのリサイクル奨励です。LOCOGの目標は、「埋立地へ行くゴミはゼロ」というものでした。コカ・コーラ社は膨大な量のペットボトルを会場へ納入するので、事前にイングランド北部のリンカンシャーにボトルをリサイクルする工場を建てました。以前は、使用済みボトルの2/3をアジアやヨーロッパなどの国外へ送ってリサイクルしていましたが、この大部分を英国内で出来るようにしたのです。その結果、オリンピックで使用されたボトルは6週間後には再度店舗の棚に並ぶようになりました。その他、地元住民と協力してゴミ箱の改善もしました。分別ラベルをわかりやすくし、その上にコカ・コーラ社からの「適切な分別廃棄を奨励しています。」というメッセージを載せました。
 また、健康な生活を意識して、オリンピック会場で消費されるコカ・コーラ社飲料の3/4は水とジュース系無糖飲料となることを目指しました。これは英国で買収したスムージー・ブランド、「イノセント」の販売促進の良い機会にもなりました。ただ、社の目標として消費量の3/4は水とジュース系無糖飲料となることを設定したのであり、勿論、会場では来場者が自由に商品を選べるようにCoke Zero(糖分ゼロ)からClassic Cokeそしてスポーツ飲料まで幅広い商品を取り揃えました。
 さらに、個別の取組では、例えば、企業トップを招待するホスピタリティ・イベントにおいて、移動時の飛行機で生じたカーボン排出分についてオフセットの活動を進める、ホテルの部屋においたギフトにリサイクルの促進に向けたというメッセージを入れる、競技場までの車の中でサステナビリティの重要性についての5分間のビデオを見てもらうなど、サステナビリティに関する意識向上の為にあらゆる機会を利用しました。結果、参加者は皆さんかなり興味を持ってくださり、サステナビリティに関して活発な議論がありました。

 

■人々のサステナビリティに対する姿勢に変化-より積極的な情報発信を

本   橋: これらの取り組みを通じ、どのようなレガシーが達成されたとお考えですか?
ムーア氏: リサイクルに関する人々の姿勢と信頼度を変えられたことではないでしょうか。英国の人々の多くは、以前はリサイクルを信用しておらず、「リサイクルとは名ばかりで、どこかのゴミ捨て場に回しているだけ」との懐疑的なイメージを抱いていたようですが、コカ・コーラ社が新リサイクル工場を使って、ペットボトルを本当に6週間で店頭に戻していることを分かってくれたのです。
ルイス氏: レガシーは、測定して数字化するのが難しいものです。私が考える最大のレガシーは、ロンドン大会が、地域のステークホルダー、自治体、NGO、国際的スポンサー、開催組織等が一同に会し、サステナビリティに関し、反対し合うのではなく協力し合った初めての例となったことです。これは目に見えにくいけれども重要なことです。例えば、私が所属していたWWFはコカ・コーラ社と緊密に連携し活動しました。私は、コカ・コーラ社のアドバイザーチームの一員として、同社のサステナビリティに関する計画に全て目を通し、改善の為の助言をしました。また、IOC(注3)にとっても、「サステナビリティはリスクとして管理する事項ではなく、むしろサステナビリティに対する意識の向上や取組の推進に向けた機会だ。」とみなす初めての大会になったと思います。そしてスポンサーも、ロンドンで初めて「サステナビリティに積極的に取り組み、サステナブルな企業とみなされたい。」という姿勢になったと思います。2016年のリオの大会はロンドンとは色々と異なる点も多いでしょうが、サステナビリティについてはロンドンのこのレガシーが反映されるはずです。IOCはサステナビリティに関してAgenda 2020を既に設定しています(注4)が、これに関する議論でもロンドンのレガシーが生きてくるでしょう。
ムーア氏: これもレガシーと言えると思いますが、私はブリストル2015キャンペーン(注5)の企画で、LOCOGのFood Visionをベースとして使うつもりです。これはスポーツ・イベントではなく、ブリストル市が2015年の「欧州環境首都」に選出されたことを受けて展開されるサステナビリティ促進キャンペーンですが(注6)、LOCOGのFood Visionは良く纏まっており、またウェブサイト上でも見られるので、他のイベントへの応用が利き、英国でのサステナビリティ推進の上で強力な牽引役となることが出来ます。
本   橋: ロンドン大会を振り返って、サステナビリティの面でもっとこうしていればよかったという点はありますか?
ムーア氏: 誇りをもって振り返ることばかりなので、正直難しいです。会場となったロンドン東部は、以前は見捨てられたような陰鬱な場所でしたが、今では心地よく誰でも住みたいと思うような成長地域となりました。この地域の再開発は、オリンピックという巨大イベントを通じて、国が一丸となってエネルギーを集中させてこそ可能になったことで、本当に素晴らしいです。
ルイス氏: 私の観点からは、ロンドン大会開催中に競技場の観客や世界中のTV視聴者に対して、サステナビリティに関してもっとよく発信出来ていたら良かった、と思います。見えないところでは様々なサステナビリティ活動が行われていたのですが、観客は、自分からそのことを知ろうとしなければ、単に競技を見て帰宅するだけで終わり、という状態でしたから。
ムーア氏: それはそうですね。特に開会式はサステナビリティに関するメッセージを発信する機会でしたので、もっと明瞭でパワフルなメッセージを発信出来ていたらよかったと思います。ですから、2020年の東京大会に向けての私からのメッセージは、開会式を過去に例のないイベントにして、国全体を一体にし、「サステナビリティという特別なことを実現するんだ。」と皆に決意してもらえるようなものに是非して下さい、ということです。

(インタビュー日:2014年9月25日)

キャサリン シモンズ-ムーア氏
キャサリン シモンズ-ムーア氏2000年の大学卒業以来、主要多国籍企業のサステナビリティ向上サポートに従事。2012年のロンドンオリンピック・パラリンピック時には、スポンサーであるコカ・コーラ社のサステナビリティへの取り組みに貢献。同社在職中の3年間で、カーボン・オフセット戦略の確立、同社のブランド力を背景にしたリサイクルに関する人々の行動変革、チャリティパートナーであるStreet Gamesとの協働による若者の活動支援等で成果を上げた。
コカ・コーラ社入社以前には、テスコ社にてコミュニティプランの策定と実行に関与。商品への炭素マークの添付や新店舗への低炭素戦略の適用等を通じ、年間30億枚の買い物袋の使用削減を達成した。
現在は、環境、倫理、コミュニティ問題等を専門とするサステナビリティに関する独立コンサルタントとして活躍中である。

 

サイモン・ルイス氏
サイモン・ルイス氏2014年1月にスポーツ業界向けにサステナビリティに関するコンサルティングを行うTeam Planetを立ち上げ。Team Planet立ち上げ以前は、WWFに12年間在籍し、スポーツの持つインパクトを共有し、スポーツを通じたサステナビリティの促進に取り組む。2004年~2012年までの間WWFがLOCOGと展開した’One Planet 2012’プログラム及び2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックがその集大成である。WWF参加以前には、ロンドンの自然史科学館や教育チャリティ団体Learning through Landscapeでの勤務経験がある。
自身のスポーツ史上最高の瞬間は、ロンドンオリンピック陸上200mでのジャマイカ勢の金銀銅独占をスタジアムで目の当たりにしたことであり、最低の瞬間は、8人乗りボート競技の際、冬のテムズ川に沈んだことである。

 

(注1)The London Organising Committee of the Olympic and Paralympic Gamesの略。大会組織委員会。
(注2)ロンドン大会においては、サステナビリティに向けた活動を主導する企業としてサステナビリティ・パートナーを指定した。取り組みの詳細は
    http://learninglegacy.independent.gov.uk/publications/london-2012-sustainability-partners.phpを参照。
(注3)International Olympic Committeeの略。国際オリンピック委員会。
(注4)IOCが策定する今後のオリンピック活動に向けての改善案。内容及び直近の動向については下記リンク先参照
    (参照:http://www.olympic.org/content/news/all-news-groups/olympic-agenda-2020/
(注5)Bristol 2015 参照: http://www.bristol2015.co.uk/about/
(注6)「欧州環境首都(European Green Capital) 参照:http://ec.europa.eu/environment/europeangreencapital/winning-cities/requirements-benefits/index.html
研究開発部
主任研究員
本橋 直樹

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