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対談:東京オリンピック(5)障がい者への見方を変える機会!

2015/02/03
本橋 直樹 日本2020戦略室

当社内横断的組織「日本2020戦略室」のご紹介

2020年の夏季オリンピック・パラリンピック競技大会の東京開催が決まり、大会企画運営、施設整備、会場周辺のまちづくり、海外からの観光客誘致、スポーツ振興、各種キャンプ地誘致等、さまざまな取り組みが動き始めています。当社は、多様で幅広い専門性を持つ研究員や、外部専門家とのネットワークを活用して、関係者の皆様の取り組みをお手伝いいたしております。
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■はじめに

このシリーズでは、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けて、持続可能性(サステナビリティ)課題に取り組む方々にお話を伺います。第5回は、障がい者の包括的教育や障がい者と非障がい者が同等に扱われる世の中の実現に向けて、幅広い取組を行っておられるタラ・フラッド氏です。

■オリンピック選手とパラリンピック選手に違いは無い

本   橋: 現在どのような活動を展開されているのですか。
フラッド氏: タラ・フラッド氏私が率いるAlliance for Inclusive Education(ALLFIE)は障がい者が運営する団体で、「包括的教育」の実現へ向けたキャンペーンを主な活動の一つとしています。私たちは、教育環境は障がいの有無や年齢によって区別されるべきではないと考えており、これを「包括的教育」と呼んでいます。英国では、障がいの無い子どもの場合、地元の3校から通学先を選ぶことが出来ます。これは障がいのある子どもの場合も理論上は同じですが、管轄する自治体が「障がいのある子どもの存在が、障がいのない子どもの効率的教育の妨げとなる」と判断した場合は、その子は普通校に行くことはできません。つまり、障がいのある子どもたちは、障害の無い子ども達が持つ普通校の選択権どころか、希望すれば普通校に通えるという権利すらもないのが実態なのです。ですからALLFIEは、「選択は真の選択であるべきであり、特別支援学校はいらない」と訴え、包括的教育が実現されるよう、教育制度全体を変えるべく取り組みを行っています。
本   橋: 2012年のロンドン大会の際、障がい者や学校教育に関して、何か特別の施策は取られたのでしょうか。
フラッド氏: 学校教育に関しては正式な政策はありませんでしたが、障がい者についての人々の理解を深めるというLOCOG(注1)のプログラムがありました。私達は、このプログラムの一環として全国の学校で講演等を行い、人々のパラリンピックの価値への理解を深め、オリンピック選手とパラリンピック選手が同等の重要性で取り上げられるように努めました。この時重要なのは、パラリンピック選手は「障がい者」である前に、まず超一流のアスリートであり、その点ではオリンピック選手と何ら違いは無いことを、理解してもらうことでした。
本   橋: ホスト国、市、LOCOGやその他組織の間で、政策決定とその実施について役割や責任は分担されていたのでしょうか。
フラッド氏: 政府による活動は特にありませんでしたが、LOCOGは非常に積極的でした。私の団体だけでなく他の障がい者団体にも資金を提供しましたし、オリンピックについて語る時は必ずパラリンピックについても語り、両者を同等に扱いました。また、ロンドン市長は「2012年までにロンドンを世界で最も障がい者が利用しやすい都市にする」という目標を掲げていました。
 ロンドン大会以前から、英国では障がい者の存在は社会において比較的顕著でした。隣人が障がい者であることは少なくなく、テレビでも障がい者が何人も活躍しています。しかし、歴史的にパラリンピックはオリンピックに対する二次的な大会と扱われていましたから、開催都市の選考プロセスにパラリンピック選手がベッカム氏のような著名なスポーツ選手と並んで参加し、障がい者と非障がい者が平等に扱われるという理想が実践されている光景は、非常に画期的でした。

 

■パラリンピック選手に対するメディアの見方を変える

本   橋: フラッド氏が一番の成功と思う事項は何でしょうか。
フラッド氏: パラリンピック選手に対するメディアの固定概念を少しは変えられたことでしょうか。「この選手はいかに障がいを持つに至り、いかにその悲劇を克服したか」、というのがそれまでのメディアの一般的な視点でしたが「大会でどう戦うのか、英国のスポーツの成功にどう貢献するのか」という視点が、少しずつではあるものの見られるようになってきました。また、パラリンピック競技の解説の殆どは、当該スポーツに詳しい障がい者が行い、オリンピック競技の一部も障がい者の解説者が担当しました。障がいがあろうとなかろうと、ロンドン2012年は一大スポーツイベントである、ということが強力な視覚的メッセージとして発せられました。
 メディアは人々の思考に大きな影響を及ぼしますので、メディアの考え方を変えることは極めて重要です。一方で、メディアの関心は短期間しか続かないのが常ですので、メディアを教育し関心を高めさせ、人々の興奮を持続させるためには、今後もスポーツのイベントを継続して行うことが重要です。
本   橋: ご自身が元パラリンピック選手という経験が、成功に貢献したと思われますか。
フラッド氏: 私は引退してもう20年になりますが、私が元パラリンピック水泳選手(金メダリスト)というだけで、メディアから強い関心がありました。インタビュー依頼が沢山来ましたので、私は他の障がい者リーダーも誘い入れ、発言する場を提供しました。このように、知名度のある障害者リーダー達と協力して、できるだけ多くの障がい者の声を反映させることは、有効な戦略だと思います。

 

■東京大会は障がい者への見方を変える大きなチャンス。メディアの効果的活用を!

本   橋: フラッド氏の目から見て、日本そして東京が2020年大会を成功させる為に重要な点は何でしょう。
フラッド氏: 日本でも最初から難しいとあきらめずに、オリンピックとパラリンピックが同等に評価されるよう努力をすべきです。ロンドン大会の際には、国全体がより良い未来に向け進んで行こうとしている雰囲気がありました。その背景には多くの障がい者の活動がありました。勿論、大会を通じ、障がい者が置かれている環境が劇的に変化したというわけではありませんが、大会をきっかけとして、今後の変化につなげられる機会が広がりました。東京はパラリンピックをどう扱うのかと、世界中のメディアが注目しますので、効果的に利用してください。
本   橋: 東京に向けたメッセージをいただけますか。
フラッド氏: 大会は、メディアを通じ人々の障がい者への見方を変える大きなチャンスですが、短期間しかありません。従い、大会前後も含めメディアを効果的に活用するために、事前にしっかり準備しておくことが必要です。東京にはまだ6年間もの時間があります。今からその毎分毎秒を有効に使ってください。そして、メディアに対するメッセージは障がい者が前面に出て発する、ということも重要です。今すぐにふさわしい人々を見定めて、企画から実施の過程に関与してもらってください。LOCOGの「大会大使チーム」は障がい者を含むチームでしたし、それに加えて、障がい者に対して否定的なイメージを抱きがちなメディア界に対してLOCOGは、「オリンピック選手だけでなく、パラリンピック選手も必ず同等に取り上げるように。」と要請しました。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会も同じことをすべきです。

(インタビュー日:2014年9月25日)

タラ・フラッド氏タラ・フラッド氏は、障がい者が地域から全世界に至るまであらゆるレベルで平等な権利を得られるように、社会的政治的変化を目指して、14年に渡り草の根活動を展開。2006年4月からは非営利団体 the Alliance for Inclusive Education (www.allfie.org.uk )の代表を務めている。同氏は、既に発効済の国連障がい者の権利に関する条約の改定にも関与した。障がい者によって組織された団体、子どもの権利に関する団体、政府機関等との協働を通じ、全力で生きる全ての障がい者の声に応えるべく奔走中。
フラッド氏は、障がい者で(氏が異議を唱える)特別支援学校の出身。

 

(注1)The London Organising Committee of the Olympic and Paralympic Gamesの略。大会組織委員会。
研究開発部
主任研究員
本橋 直樹

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