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大会事前キャンプについて(後編)

- 2012年ロンドン大会における英国各地の取組事例に学ぶ

2015/12/09
本橋 直樹 日本2020戦略室

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5.2012年ロンドン大会における事前キャンプの例

5-1. 概略

2012年のロンドン大会の際には、多くの国・競技団体が英国全土で大会事前キャンプを実施し、その数はオリンピック・パラリンピック合わせて200以上にも上ったとのことである注1 。会場となったのは、大都市の大学キャンパス、地方都市のスポーツ施設、郊外の寄宿舎付学校等多岐に渡っており、受入地はロンドン周辺のみではなく、イングランド南部からスコットランドに至るまで幅広く分布していた。

ロンドン大会時の大会事前キャンプについて特筆すべきこととして、英国政府による事前キャンプ促進策が挙げられる。同大会の開催に当たり、大会組織委員会委員長を務めたコー卿(Lord Coe)は大会事前キャンプの英国内への積極的な誘致を提唱し、具体的な受入促進策として、英国内で大会事前キャンプを実施した各国オリンピック委員会等に対し、英国内で要したキャンプ関連費用のうち25,000ポンド(約500万円)を上限に払戻を行う支援策を創設した。その結果、通常であれば、主に資金面が制約となって大会開会直前に直接選手村入りする他ない中小国についても、大会事前キャンプの実施が可能になったとのことである。

各事例紹介地の位置

図表 各事例紹介地の位置

5-2. Glasgowの例注2

Glasgowは、スコットランド最大の人口(約60万人)を擁する産業都市である。同市では、ザンビアのオリンピックチーム及びキューバのパラリンピックチームが大会事前キャンプを行った。

Glasgowは2014年にCommonwealth Game注3の開催地となったが、数年前よりその誘致及び準備の為の関連会議の場で各国のスポーツ関係者と接触の機会があり、これが事前キャンプ受入へと繋がっていった。実際の誘致活動に際しては、2014年のCommonwealth Game開催に向け関連施設整備が進んでいることに加え、涼しい気候やコーチ陣、栄養士、理学療法士等の選手のサポートスタッフ提供、更には余暇時間のアクティビティの提供等もセールスポイントに掲げると共に、受入責任者自らが北京大会等でのマーケティング、候補国の現地訪問、下見の誘致等を積極的に展開した。

5-3. Sheffieldの例注4

Sheffieldは、イングランド中部に位置し、人口約56万人を有する英国の中核都市である。かつては鉄鋼業・石炭産業で繁栄したが、産業構造の変化に伴い街は活気を失い、一時は失業者の多い衰退した街になっていたとのことである。しかし、Sheffieldは1991年のユニバーシアード大会開催をきっかけに、スポーツを新たな主要産業の1つと位置付け、同大会に合わせて整備されたスポーツ施設を核に、以後、数多くの大会・事前キャンプ等を開催してきた。

このような背景の元、Sheffieldはロンドン大会においても、従前からの流れの延長として大会事前キャンプの誘致・開催を行った。誘致に際しては、担当者が2008年の北京大会時に現地にて各国のオリンピック・パラリンピック委員会等への働きかけを行い、誘致したい国・競技団体をSheffieldへ招待し、魅力を伝えていった。Sheffieldは、ただ有名なチームを誘致するのではなく、規模が小さくともメダルを取ることができると考えられるクオリティーの高いチームを誘致することに力を入れると共に、大会事前キャンプの経済効果のみならず、その後の文化交流他将来的な関係構築を視野に入れて、誘致する国・競技団体を選択したとのことである。その一例として、担当者は、以前ペレが同地を訪れたことをきっかけに始まったブラジルとの交流が、今回、ブラジル柔道チームの受入に繋がったと、誇らしげに語っていた。

5-4. Kent州の例注5

Kent州はイングランドの南東部に位置し、果実、ホップの生産が盛んな自然豊かな面積3,736平方キロの州である(ほぼ日本の埼玉県に相当)。

Kent州の取組の特徴は、誘致へ向けた動き出しの早さである。州の担当者によれば、同州は2012年大会の開催地が、ロンドンになってもパリになっても対応出来るよう、まずは各国の大会・競技関係者のコンタクト先を丹念に調べる等の事前準備を行い、ロンドンでの大会開催が決まるや否や、一斉にコンタクト・宣伝を開始したとのことである。その際には、州として誘致に力を入れるべき対象を州内の利用可能施設等も勘案の上、予めホッケー、サイクリング、アーチェリー、陸上、バレーボールの5つに絞り、各競技毎に紹介DVDも作成し、これを送付している。その後、担当者は、2008年の北京を含めプロモーションの為の現地訪問等を精力的に繰り返し、一方で、州内の元オリンピック・パラリンピック選手等への聞き取りを通じて選手の視点に立った提案内容の精査・向上にも努めた。これらの取組の結果、州内では11拠点で大会事前キャンプが実施されると共に、今後の世界選手権等の際の事前キャンプ実施への問い合わせも既に入ってきているとのことである。

 

6.大会事前キャンプ誘致に向けたステップ

以下では、5章で紹介した英国における取組事例を参考に、大会事前キャンプの誘致に向けたポイントを4つのステップに分けて整理する。

ステップ1は、使える「資源」の洗い出しである。選手が最終調整を行うのに必要な規模・規格の練習施設の存在や、宿泊施設、宗教等も考慮した食事の供給体制の有無はもちろんであるが、練習相手や語学ボランティアの提供可否も重要な要素となる。また、大きなプレッシャーにさらされている選手達にとっては、心身のリフレッシュも大会事前キャンプにおいて欠かせない項目であり、「余暇の過ごし方としてお勧め出来るもの」も確認すべき資源の1つである。

ステップ2は、ターゲットの絞り込みである。誘致活動を効果的に進めるに当たっては、「どの国・競技が呼べるか」ではなく「どの国・競技を呼びたいか」との視点が大切である。その為には、大会事前キャンプの受入を通じて、どの国と中長期に渡る強い繋がりを持ちたいのか、地域にどのようなインパクトを与えたいのか等の総合的なビジョンを事前にしっかり構築しておくことが求められる。また、ターゲットの絞り込みに際しては、国・競技の事前の知名度やメダル獲得の可能性をどの程度重要視するのかの検討や、留学生、移民、過去のオリンピック・パラリンピック関係者等、地域における特定の国・競技への繋がりの確認も必要である。

ステップ3は、マーケット・マッチングである。ステップ2の絞り込み結果に基づき、実際に自らの地域の売り込みを図る段階であるが、「いつ」「誰に」「どうやって」売り込むのかの戦略が非常に重要なのは言うまでもない。その為に必要となるコンテンツ・媒体の準備、重要人物の把握等、事前に行うべきことは非常に多岐に渡る。

ステップ4は、その後の交渉・契約から実際の受入である。ステップ3で大会事前キャンプの受入国・競技について大凡の目星がついたとしても、それはまだ入り口に過ぎない。当然のことながら、選手側は本番でのベストパフォーマンス発揮の為の環境づくりには最後の最後までこだわり続ける為、受入地側は、相互訪問、下見キャンプ等を通じてお互いの理解を深めると共に、どこまで相手側の要求により添えるかがポイントとなる。実際、英国においても、受入準備は最終段階まで進んだものの、結局取りやめになった例もあるとのことであった。

 

7.最後に

以上、本稿では、今夏に行った現地インタビューを元に、大会事前キャンプの要点について考察を行った。今後、我が国においても2020年の東京大会に向けた大会事前キャンプの誘致が本格化すると予想されるが、5章で紹介した英国の例に照らすと、来年夏のリオ大会は非常に重要な機会となる。もちろん、リオ大会以後も東京大会開会のその日まで、大会事前キャンプに向けた取組は長く続いていくことになるのだが、自国でのオリンピック・パラリンピック開催は、人生においてそう何度も訪れない 非常に貴重な機会である。この滅多にない機会を捉え、大会事前キャンプを地域の活性化に上手に繋げていくためには、早目、念入りかつ情熱的に準備・取組を行うことが何よりも重要である。

(注1)インタビュー時の受領資料等に基づきMURC集計
(注2)MURCによるGlasgow School of Sport, Bellahouston Academy幹部へのインタビュー(2015年7月28日)及びその際の受領資料等に基づく
(注3)英連邦加盟国による競技会。4年に一度開催される。次回2018年はオーストラリア/ゴールドコーストで開催予定。
(注4)MURCによるSheffield City Councilの担当者へのインタビュー(2015年7月27日)に基づく
(注5)MURCによるKent州担当者へのインタビュー(2015年7月29日)に基づく
研究開発部
主任研究員
本橋 直樹

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