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官民の「アリーナ」と自治体に求められる視点(前編)

アリーナは公共だけのものか

2019/01/31

近年、数千人以上の集客が期待される「アリーナ」に対する注目が高まっている。本稿では、前後編に分けて、アリーナを取り巻く状況と官民の事業姿勢を整理し、事業主体となる自治体に求められる視点について考察を行う。

1.「体育館」から「アリーナ」へ

ここ数年にかけて、Bリーグ(バスケットボール)、Vリーグ(バレーボール)、Tリーグ(卓球)など、屋内スポーツのトップリーグが相次いで創設・リニューアルされ、東京五輪も控える今、アリーナスポーツの活性化に向けた機運が急速に高まっている。加えて、平成28年11月にスポーツ庁が公表した「スタジアム・アリーナ改革指針」ではスタジアム・アリーナに関する施設整備や計画策定に関する指針が示され、自治体を主な対象とした情報提供が行われることとなった。同指針は、スタジアムとアリーナの両方を対象施設として取り上げながら、両者を「数千人から数万人の観客を収容し、スポーツを観ることを主な目的とする施設」と位置付け、従前の施設で不足していた「観ること」を重視した各種取組みの促進を謳っている。同指針の公表前後から、全国各地では様々なアリーナ施設の整備に向けた計画・準備が着々と進んでおり、スポーツ庁によれば2018年3月1日時点で23件のアリーナ・体育館の新設・建替構想があるとされている(ⅰ)。このように、「観ること」を通じた大規模な集客の可能性がある「アリーナ」に対する地域の期待は非常に大きくなっているといえる。

一方、アリーナに関する公式な定義は明確に決められているものではなく(ⅱ)、各施設の判断で「アリーナ」を施設名に冠していることが実情である。元々「アリーナ」はラテン語(arena)の「砂」を語源とし、砂が闘技場に敷かれたことを由来として観客席のある競技場をアリーナと称するようになったといわれており、古くからイベント等を観る場としてアリーナが認識されていたと考えられる。また、公的な統計においてアリーナとされる施設は「体育館」に分類されることが一般的であるが、文部科学省「体育・スポーツ施設現況調査」においては、体育館を「競技用床面積132 ㎡以上の建物で、必要に応じて各種スポーツが行えるもの」として定義している。同調査では床面積のみを基準に施設の設置数等を整理しており、先述の指針では施設で「観ること」を重視していることを踏まえ、本稿では一定以上の床面積と観客席数を備えた体育館を日本における「アリーナ」と捉えることとしたい。

同調査によれば、学校敷地内にあるような教育関係施設を除く体育館の場合、平成27年度において行政機関が設置する体育館(公共スポーツ施設)は8,777施設、民間資本による体育館(民間スポーツ施設)は320施設であり、自治体を中心とした行政機関が体育館を所有する割合が非常に高いことが分かる。体育館の規模別にみると、競技用床面積1,300㎡以上の比較的大規模な体育館は公共スポーツ施設のほうが相対的に多く、民間スポーツ施設では競技用床面積659 ㎡以下の小規模な体育館が過半数を占めている。

競技用床面積1,300㎡以上の体育館に関する具体的な施設規模や観客席の大きさ等については同調査から把握できないものの、施設の絶対数を考えれば、アリーナが志向する大規模な集客の実現余地がある体育館はほとんど自治体が所有しているといえるだろう。先述の指針はこうした社会資本としての自治体による体育館の多さを念頭に置き、従来の「体育館」から観客動員を前提とした「アリーナ」への転換を促すことで、施設としての収益基盤を強くする狙いがあるものと推察される。

図表 1 教育関係施設を除く体育館の施設数及び施設規模別割合

出典)文部科学省「体育・スポーツ施設現況調査(平成27年度)」より当社作成
注)「大規模施設」:競技用床面積1,300㎡以上の体育館、「中規模施設」:同660~1,299 ㎡の体育館、「小規模施設」:同132 ~659㎡の体育館を指す。

2.大型化が進む民間アリーナ施設

このように自治体を中心とした施設供給がなされてきた体育館・アリーナであるが、近年は民間資本による比較的規模の大きなアリーナ施設の建設が活発化している。既存施設では「ゼビオアリーナ仙台」や「アリーナ立川立飛」などがすでに整備されており、新規施設ではぴあ株式会社や株式会社ジャパネットホールディングス、株式会社ケン・コーポレーションによるアリーナ施設の整備計画が公表されている(図表 2)。これらの施設は最低でも3,000席を備え、一般的な総合体育館以上の観客席が用意されていることに加え、ケン・コーポレーション社が計画しているアリーナは2万人規模のキャパシティが予定されており、民間アリーナ施設の大型化を顕著に示す例といえる。

施設の用途に着目すると、ゼビオアリーナ仙台やアリーナ立川立飛においては冒頭に述べたBリーグやTリーグが開催され、アリーナスポーツによる施設利用が多くなされているほか、ジャパネットホールディングス社が計画している施設は公開情報こそ少ないものの、スポーツ観戦を施設利用に取り込もうとする姿勢が垣間見える。一方で、必ずしも「体育館」という言葉が想起させるスポーツイベントが用途の中心というわけではなく、昨今のコンサート市場の活況を受け、多くの施設でコンサートをはじめとした音楽イベントを積極的に誘致又は計画していることが確認できる。特にぴあ社やケン・コーポレーション社が計画している大型アリーナは音楽専用の会場となることが予定されており、多目的利用がなされることの多い大規模な屋内集客施設としては異例の方向性が打ち出されている。

以上より、近年に開業した、もしくは計画されている民間資本のアリーナ施設においては、単なる施設の大型化だけでなく、消費者(観客)を意識した民間事業者ならではの施設運営が志向されていることがわかる。各施設の状況を踏まえると、市場環境の動向に応じた特定コンテンツとの連携や事業主体が持つ業界知見及びネットワークを活用した催事誘致、商業施設の併設を含む採算性を踏まえた施設整備・設備導入、事業主体の本業との相乗効果(が期待されること)などが民間によるアリーナの特長として挙げることができよう。また、海外に目を向けると、大規模なアリーナの整備のみならず周辺地域の開発を併せて推進し、複合的な施設開発による事業推進を図る民間事業者もみられるなど、民間主体のまちづくりの中にアリーナ施設が位置付けられている都市もある。これらのことから、アリーナ施設は必ずしも自治体が独占的に供給するもの(公共財(ⅲ))とは限らず、事業条件が整えば、フィットネスジムなどの施設と同じように民間主体による供給が可能な商品(私的財(ⅳ))になる可能性を持つ施設といえる。

図表 2 民間事業者主体によるアリーナ施設(計画中含む)

出典)施設HP及び各社報道資料より当社作成

自治体の比較的大規模な体育館は、国民体育大会(国体)をはじめとする大規模な競技大会の開催を主な契機として整備されてきたという歴史的な経緯があり、特に多くの都道府県で2度の国体開催実績があることを踏まえると、一定の体育館はストックとして各地域に蓄積している。また、民間資本による体育館は古くは企業の福利厚生施設として整備・運営されてきており、先述の「体育・スポーツ施設現況調査」の結果からも、民間の体育館が全国で300施設以上存在していること(ⅴ)が明らかとなっている。

このような状況の中で、アリーナという大型の屋内集客施設の開発が官民問わず進んでおり、その背景として、アリーナスポーツの勃興やコンサート市場の活況という需要の高まりに加え、会場となる施設側の大規模改修や建替等による供給不足が大きな要因になっていると考えられる。一方で、同じ市場環境に直面していたとしても、公共と民間では大型アリーナ施設の整備・運営に対する事業姿勢(行動原理)が異なるはずである。この点について、後編では、主に採算性の観点からみた官民における事業姿勢の違いとそれを踏まえて自治体に求められる視点を整理したい。

ⅰ未来投資会議 構造改革徹底推進会合「地域経済・インフラ」会合 (中小企業・観光・スポーツ・文化等)(第4回)スポーツ庁提出資料(2018年4月17日)参照。
ⅱ一般社団法人アリーナスポーツ協議会「アリーナ標準」(2013年10月)においては、観客席数を基準としたアリーナ/体育館のクラス別分類が行われている。同資料では4000席程度の観客席数を「小規模アリーナ」に分類し、最低でも2000席以上の観客席数を有する施設をアリーナとして位置付けている。
ⅲ 経済学における消費の「非競合性」と「非排除性」を持つ財のこと。「非競合性」とは、当該財の消費者の増加が他の消費者の利用を妨げない性質を持つことを指し、例としては国防や警察、消防等が挙げられる。「非排除性」とは、対価を支払わずに財を利用しようとするものを排除できない性質を指し、例としては公園等が挙げられる。
ⅳ経済学における消費の「非競合性」及び「非排除性」を持たない財のこと。一般的な市場取引によって扱われる商品のほぼすべてが該当する。
ⅴ多くの民間体育館は福利厚生施設としての特色が強く、企業関係者のみが主な利用者となっていたため、積極的な観客動員が期待されるアリーナ施設は多くなかったと推測される。

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