1. ホーム
  2. レポート
  3. レポート・コラム
  4. サーチ・ナウ
  5. 防災・減災対策を考えなおすシリーズ Ⅱ

防災・減災対策を考えなおすシリーズ Ⅱ

新型コロナ禍の水害避難行動を考える

2020/07/29
政策研究事業本部名古屋副本部長/上席主任研究員 永柳 宏

令和2年7月豪雨では、熊本県、大分県、岐阜県等の8県に甚大な被害をもたらし、現在も多くの被災者が避難生活を余儀なくされ、地域の復興も途についたばかりである。線状降水帯による激しい豪雨が深夜から未明に襲い、短時間にて河川氾濫に至った今回の水害は、水害の避難行動のあり方に新たな問題点を投げかけている。
今回の災害では、特別養護老人ホームを氾濫流が襲い、施設1階で暮らす14名の方が犠牲になった。被災前日夕刻に、球磨村より避難準備情報が出されていたが、未明の浸水に、避難誘導、救助が手遅れになった。改めて、避難情報提供のあり方と避難判断・タイミングが課題になっている。
近年多発する河川水害を経験として、垂直避難の重要性、状況情報(水位等)に基づく避難、避難準備情報の理解、近隣からの呼び掛け、マイタイムラインの活用が指摘されているが(文末表参照)、未明かつ短時間で発生した今回の被害は、これらを現場で実践する難しさを改めて考えさせられるものとなった。
一方、長期化が懸念されるコロナ禍では、避難所の感染リスク回避についても考えていく必要がある。感染リスクを恐れ、切迫した水害に対して、避難を躊躇する必要はないが、コロナ禍を踏まえて、改めて自分や家族にとって、有効な避難行動を考えることが求められる。自治体においても、コロナ禍のなかで集合型の学習機会は残念ながら積極的には設けられないが、住民への啓発、情報提供の体制づくりを疎かにせず、新たなアプローチを考えていく必要がある。コロナ禍だからこそ考えてみたい水害避難行動のあり方と啓発対策について考えてみたい。

水害避難行動には、避難先と避難タイミングを考えることが重要である。コロナ禍の避難では、地域には多様な避難先があることを住民に理解してもらうことがポイントである。避難先は指定の避難所だけではなく、自宅の2階や天袋、親戚・知人の家、近くのマンション・高台、ホテル等が考えられる。地域で多様な避難先を確保できていることは、コロナ禍のなかで避難所の3密防止にも有効である。コロナ禍のなかで地域ワークショップ等を開くことは難しいものの、自治体や地域役員が、対応可能な避難先を示して、住民に広く情報提供を行うことで、住民が状況に応じた避難先について考える機会を確保したい。

避難タイミングは、コロナ禍では、これまで以上に住民のリスク感度を高め、避難判断を早めることが重要である。昨年の台風19号では一部の避難所への集中がみられた。避難所の3密防止を事前に回避するためにも、余裕を持った避難判断が賢明である。また、今回の令和2年7月豪雨では、前日夕刻に避難準備情報が出されていたが、実際の避難行動に十分結びついておらず、平成28年8月の岩手県岩泉町の小本川災害を思い起こさせる。新型コロナ感染で死亡率が高いと言われる高齢者の優先的避難を行うためにも、避難準備・高齢者等避難開始を、実際の避難行動に結びつける啓発を再度徹底する必要があろう。

自治体では、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の活用に関心が集まっている。防災分野のIT化も該当領域になっており、避難行動の迅速化・確実化につながる具体的な取り組みを考えてみたい。ひとつは防災ラジオの普及である。令和2年7月豪雨では、未明の災害であったため、情報PULL型のテレビ等は機能せず、情報PUSH型の防災ラジオ、災害メールが効果的であったと言われている。防災ラジオは、緊急時には自動に緊急放送に切り替わり、聞き逃し防止機能もついている。交付金等を活用し、防災ラジオの頒布を行い、あわせて避難情報や水位情報の教材を配布するといった取り組みを提案したい。また、防災ラジオでは、避難判断水位等の水位情報が配信されていないことも多く、提供コンテンツの強化も期待したい。
2つめは、避難所の開設情報提供とあわせた、避難者数公開のオープンデータ化である。多くの自治体では、避難所開設情報は、インターネットやdボタン等で公開されている。しかし、避難所毎の避難者数はリアルタイムでは公開されていない。避難者数を公開することで、避難所での受け入れ拒否につながるような避難者の過度な集中が回避される。また、御近所に率先的に避難されている人がいるという情報は、避難をためらっている人の後押しになり、早期避難を誘導することにもつながる。避難所のカメラ、人感センサー等の設置は、防災スマートシティの取組みとしても、多くの効果が期待できるものである。
3つめは、防災学習・訓練のリモート型での実施である。従来の防災学習の参加者は高齢者が多く、年齢の片寄りが課題であった。高齢者層へのリモート学習は難しいものの、学生・生徒、親子世代、企業人等は、リモート学習・会議に慣れ親しんでいる。リモート学習・会議の普及は、従来、対象としてこなかった層に対して、水害に関する防災学習・訓練を実施する好機にもなっている。また、リモート学習は、避難確保計画策定が義務化されている老人ホーム等にも徹底強化を期待したい。ただ、担当の保健福祉部局は新型コロナの感染防止対応で手一杯の状況にある。新たに河川部局、都市計画部局等が支援する庁内体制をつくっていく必要がある。河川部局、都市計画部局が老人ホーム等の実態を知ることは、地域の弱点を理解し、防災に強いまちづくりを一層進めることにもつながるはずである。

新型コロナの感染拡大は予断を許さない状況になっているが、頻発化する大規模水害を前に、住民への水害避難行動の啓発も時間との勝負になっている。自治体、地域役員、防災ボランティアの方々の新たな取組みに期待したい。

■近年の大規模な河川水害と顕在化した避難行動の課題

年次 名称 被災概要 顕在化した避難行動の課題
令和2年
7月
令和2年7月
豪雨
大規模な線状降水帯により深夜から明け方の豪雨となり、急激な水位上昇、氾濫によって、老人ホームをはじめ多くの方が亡くなった。 メール配信、防災ラジオ等の未明の避難情報提供のあり方と避難タイミングが課題になった。
令和元年
10月
台風19号 広域にわたる同時多発型の水害であり、関東甲信越、東北地方を中心に、死者・行方不明者99名、住宅の全半壊等4,008棟、住家浸水70,341棟の極めて大きな被害になった。 一部の避難所等への避難者の集中がみられた。また、避難途上の被災が多く、マイタイムライン活用の重要性が指摘された。
平成30年
7月
平成30年7月
豪雨
西日本を中心に広域的かつ同時多発的に河川氾濫、がけ崩れが発生。小田川(倉敷市真備町)では、多くの高齢者が被災した(70歳以上41名が死亡)。 行政からの避難情報だけでなく近隣からの避難呼び掛けの重要性が確認された。
平成28年
8月
台風10号 岩手県岩泉町では、町内を流れる小本川がはん濫し、高齢者グループホーム入居者9名の方が亡くなった。 避難準備情報段階での高齢者避難の重要性が指摘された。
平成27年
9月
関東・東北豪雨 鬼怒川の堤防が決壊し、4,000人以上の方が逃げ遅れた。 状況情報(水位、雨量等)に基づく避難の重要性が指摘された。
平成21年
8月
佐用豪雨 兵庫県佐用町本郷地区では、夜間の避難途中に小河川(用水)の氾濫に巻き込まれて3家族9名の方が亡くなった。 水平避難だけでなく垂直避難の重要性が指摘された。
名古屋本部
地区本部副本部長
永柳 宏

関連レポート

レポート