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防災・減災対策を考えなおすシリーズ Ⅶ

オンライン会議アプリ活用による遠隔地情報伝達等訓練のすすめ ~WITHコロナの災害対応を考える~

2020/09/09
政策研究事業本部 研究開発第1部 主任研究員 高松 孝親

1.新型コロナ感染症対策のために、防災訓練は見送らざるを得ない?

クライアントの皆様から、「新型コロナ感染症対策のために、今年の防災訓練は見送らざるを得ないでしょうか?」といった御相談を受けることが増えてきました。各自治体において取り組まれている防災対策訓練は、手順確認やレイアウト・動線を検討する図上訓練や、実際の土地や施設を活用した実地検証型の実働訓練等と多岐に渡り、また参加者も自治体職員の方々だけに限らず、市民・ボランティア組織や災害時応援協定締結先の民間事業者の方々にも参加いただくケースもあり、どうしても訓練実施中の「三密」が発生しやすいに状態になります。
実際に、緊急事態宣言下においては「毎年開催している全庁訓練(又は多機関合同訓練)の中止」を発表される自治体が見られ、新型コロナ感染防止の観点から、中止も止むを得ないものとご判断されているようです。
本稿では、新型コロナ感染症対策を実施しなければならないという制約がある中で、防災訓練を実施する意義と実施可能性について考察してみました。

2.災害時対応における感染症対策「三密防止」の観点から、新たな防災訓練を実施すべき!

令和2年6月16日付で内閣府防災情報のページ(http://www.bousai.go.jp/index.html )において、「新型コロナ感染症を踏まえた災害対応のポイント【第1版】(以下、「本資料」という。)」が公表されています。本資料の「第Ⅱ編 個別分野ごとの留意事項等」では、「Ⅰ.避難所関係」「Ⅱ.災害対策本部関係」「Ⅲ.被害認定調査、罹災証明書関係」「Ⅳ.ボランティア関係」の構成となっています。
本資料では、重点は最重要課題となる「Ⅰ.避難所関係」に紙面は多く割かれており、可能な限り「三密」を避けるための「基本的な感染症対策」から「避難所レイアウトの考え方」「必要な物資の備蓄」等のポイントがまとめられています。各自治体においては、記載されたポイントを、実際の避難所レイアウト検討に置き換えて、避難所開設図上訓練・実地訓練を実施し、課題検証・必要物資調達の検討等を行う必要があります。
加えて、本資料では、災害時の司令塔となる災害対策本部においても、「三密」を避けるための工夫(座席配置等レイアウトの工夫、必要な備品等)が挙げられています。恐らく、多くの自治体で、現時点で想定されている災害対策本部レイアウトは、そのほとんどが新型コロナに限らず『感染症対策(災害時対応職員が感染せず災害時優先業務を継続できる)』の観点が不十分な想定レイアウトとなっているのではないでしょうか。実際に災害対策本部設置を想定されている会議室において、「三密」を避ける新たなレイアウト検討を実施する図上訓練・本部開設実地訓練を実施する必要があります。
また、本資料では、参集人数・機会を必要最低限に収めるために「TV会議システム等の活用」が、工夫のポイントとして挙げられています。恐らく多くの自治体が、災害対策本部にはTV会議システムが配備されているものの、実際の災害対応業務を実施する各部・各班等の実働部隊までへの「オンライン会議アプリ活用」が普及した状態となると、まだまだ課題が多いのが現状ではないかと思われます。
一方で、新型コロナ感染症対策の一環として、各界においてTeams・Zoom等のオンライン会議アプリの利用機会が多様化し、利用頻度が増えることにより、徐々に身近なツールとなってきています。今後、感染症対策の観点から防災体制のあり方を見直すにあたって「災害対応時のオンライン会議アプリ活用・習熟」を訓練目的とした、新たな遠隔地情報伝達等訓練を実施することも必要となってきます。既に、「災害対応時のオンライン会議アプリ活用」に取組み、遠隔地情報伝達訓練を実施されている自治体も出てきています。

3.遠隔地情報伝達等訓練実施により期待される効果

オンライン会議アプリを活用して、遠隔地情報伝達等訓練を実施することにより、「災害対応時のオンライン会議アプリ活用・習熟」といった効果の他にも、次のような効果が期待されます。

遠隔地情報伝達等訓練実施により期待される効果

(1)遠隔地であることで、情報伝達の相手先の状況の見えにくさ(災害時の実際の状態)を体験

一つの会議室に参集しての図上訓練等では、情報伝達先の担当者の訓練中の様子を感じやすい状態であることがほとんどです。しかし、その情報伝達先の担当者は、実際の災害時には、離れた場所にいるため、様子は見えないはずです。限られた訓練時間の中で円滑に訓練運営を進める上では致し方がない場合が多いですが、この「相手の様子が見える・感じられる」という状況では、実際の災害時に発生する「相手先の状況が分かりにくい」という極めて重要な状況を、訓練参加者に体感させることができないため、本来気が付くべき課題・改善点を見過ごすことも考えられます。
Web会議室を介して、コントローラーが発する訓練進行上最低限必要な音声情報以外が入ってこない、という状況は「相手先の状況が分かりにくい」という「災害時の実際の状況」を訓練参加者に体験いただくことにつながり、普段の訓練では見えなかった新たな発見・気づきが得られる可能性があります。

(2)参加者の「普段の環境」を「災害時にどうするのか?」目線で実際的にチェック

一つの会議室に参集してしまうと、「訓練のために準備が整えられた空間」であり、実際災害時に「自分が対応・行動する空間」ではなくなってしまうので、簡単な「情報伝達」一つとっても、その情報を受発信するツール(メール・FAX・電話)をリアルにイメージすることも困難になります。
以前に、弊社で御支援させていただいた某県内市町合同情報伝達訓練において、オンライン会議システムこそ不使用でしたが、一堂に会さず、各市町担当者が普段の自席で平常業務をこなしながら、訓練シナリオ上の情報伝達もこなすという訓練を行いました。その際の振り返りアンケートでプレイヤーから寄せられた意見では、「被災地の応援業務を実施しながら、並行して平常業務をこなすことの難しさを体験できた」「一言で『情報伝達する』と記載がある手順も、メールでのやり取りは情報セキュリティ上の壁があったり、FAXでのやり取りは平常業務のFAX通信書類と混在する等、情報の受信・発信に手間取ることをリアルに体験できた」というものが多く寄せられました。
Web会議室を介して、訓練参加者が「普段の環境」を前提として、訓練進行に沿い、訓練行動を実施することで、某県内市町合同情報伝達訓練において得られたような、訓練参加者の新たな気付きが得られる可能性があります。

(3)参集参加が困難な方や、普段参画いただけない方の参加可能性(防災意識啓発の裾野を広げる)

訓練後の振り返りアンケートにおいて、よく聞かれる御意見の一つとして「訓練参加者の裾野を広げるべき」というものがあります。日々の業務等の御多忙の中で、中々訓練に参加することが難しく、定期的に実施されている訓練では各団体等から参加される方が固定化されるケースも少なくありません。
Web会議室を介しての訓練であれば、図上訓練会場又は実地訓練会場にまで足を運ぶことは困難な方にも、また訓練時間全体への参加は困難な方にも、可能な範囲で訓練に参加いただくことが可能であり、訓練会場の様子をWebカメラ等で中継することにより、訓練参加の疑似体験を頂くことも可能になります。

(4)アプリの録画機能を活用して、容易に訓練記録。訓練記録の欠席者への閲覧案内・配付等

訓練記録は写真や議事録等で、訓練参加者あるいは欠席者に対して共有されることが一般的です。
Web会議室を介しての訓練であれば、オンライン会議アプリの録画機能を活用して、容易に訓練中の音声・映像の記録を行うことができ、訓練参加者あるいは欠席者に対して、よりリアルな訓練動画の形で情報共有(閲覧案内・動画配付等)を行うことが可能になります。

(5)現地訓練参加者人数(見学者等)を一定絞り込むことが可能(三密の低減)

何よりも、新型コロナ感染症対策が必要な中であっても、現地訓練参加者人数を必要最小限(感染防止対策を万全に行える範囲で)に絞ることができ、三密を低減した訓練環境を整えることが可能となります。

オンライン会議アプリを活用しての遠隔地情報伝達等訓練を実施するにあたっては、「Webに接続可能な機器」「通信環境」の確保が訓練事務局及び参加者の双方に求められることや、訓練実施中の訓練参加者のトラブル・エラーに訓練コントローラー(訓練事務局)側で察知しにくい等、訓練企画・運営上の課題があり、取組実施の障壁となっているかもしれません。しかし、その課題は「感染症対策」を前提とせざる得ない現状を考えた場合、災害時の自治体対応能力を向上させていく上で、必ず経験し(失敗してでも)、対応策を検討しなければならない課題と言えるのではないでしょうか。

研究開発第1部
主任研究員
高松 孝親

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