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地域スタートアップエコシステムの形成に向けて

2019/06/24
杉原 美智子

近年、地域の産業振興、企業誘致や地域活性化に向けた取り組みとしてスタートアップ支援施策が注目されている。スタートアップとは、短い期間で急成長を目指す企業のことを言い、これまでの創業支援やベンチャー支援の枠組みで対象としてきた個人事業主や中小企業とは区別して考える必要がある。地域でスタートアップ支援に携わる方から受ける悩みとして「地域にはそもそも起業家がいない」こと、「出てきたとしても東京に行ってしまう」ことがあげられ、地域でスタートアップ支援やスタートアップエコシステムを形成することは難しいと言われる方が多い。
本稿は、こうした地域でスタートアップ施策に携わる自治体職員や公的支援機関の方を対象に、スタートアップ施策を実施する際の心構えと、地域でスタートアップエコシステムが形成されるために重要な視点と具体的な施策を紹介するものである。

1.成功するスタートアップ施策の3か条

① スタートアップにフォーカスする
先に述べたとおり、スタートアップとは短期間で急成長を目指す事業モデルであり、これまでの創業支援の対象となっている個人事業主や中小企業とは支援方法が異なる点を理解する必要がある。各地域でよく見かけるが、個人事業主や中小企業や非営利法人などが混合している施策やイベントが多い。ターゲットは明確にすることが重要である。
② スタートアップの成果をゴールに
短期間で急成長を目指すスタートアップにとって重要なのは資金調達や大企業との事業提携などの成果である。この二大課題にフォーカスした施策の設計も重要である。例えば、スタートアップ向けのビジネスコンテストなどの場合、審査員に大学の教授や中小企業診断士の方々を据えているケースが見受けられるが、ゴール設定がスタートアップにとっての成果であれば、審査員や来場者の多くにベンチャーキャピタリスト(VC)や大企業のCVCや業務提携の担当者などを招いておいた方が良い。
③ 量ではなく、質を重視する
スタートアップは世界と戦う企業の発掘・育成であり、そこを目指す人材を増やす上では質の高い施策が重要である。量を重視する施策の例えとして、イベントの回数や参加者数を施策のKPIとして設定しているケースが見られる。こうした場合、担当者の多くはとにかく数をこなす・数を集めることを重視してしまい、施策の質が低下し、その結果スタートアップも参加したがらないという悪循環を招きかねない。裾野を広げる、誰にでも平等であるべきことが優先される公的機関の取り組みとしては難しいかもしれないが、とにかく質を上げることで向こうから集まってくるプル型の状況をいかにつくるのか、という発想に頭を切り替える必要がある。

2.地域スタートアップエコシステム形成に向けて

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)では、2011年よりNICT ICT Mentor Platformを設置し、地域のスタートアップエコシステム形成に携わってきた。地域におけるスタートアップ施策の二大問題である「そもそもいない問題」と「いても出て行ってしまう問題」に悩む地域支援機関の方に向け、地域スタートアップエコシステムを形成するにはどのような取組みをすれば良いかの処方箋として、「新産業創出力」を図る指標を提案しているので、紹介したい。

図 1地域からスタートアップが生まれるための4つの視点「新産業創出力」

出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

地域からスタートアップを生みだすためには、「地域から起業家が生まれ」、「その起業家が地域に根付くこと」が必要である。地域から起業家が生まれるためには、①起業家の源泉があり、ロールモデルの存在など②目線向上の機会があることが重要である。また、地域に起業家が根付くためには、③資金調達手段があり、政策面での優遇など④バックアップ体制など、そこにいなくてはならない理由が必要となる。
これら4つの視点(新産業創出力)に基づき、何が揃っていて何が不足しているのか?を明確にし、各種施策を実施し補完していくことが必要であるとしている。

2-1.地域から起業家が生まれるための要素
そもそも、地域から起業家が生まれるためには、①起業家の源泉が必要である。起業家の源泉とは、高校・高専・大学などの地域の教育機関の存在を意味する。地域でエコシステムを形成している方々は大学のビジネスコンテストや起業部などと連携し、教員を巻き込んで起業家の源泉と繋がることが必要である。その他に、ICT関連のコミュニティも源泉となり得る。こうした起業家の源泉となる方々との繋がりをもつことが重要である。
次に、①の起業家の源泉が起業するに至るプロセスとして、②目線向上の機会があげられる。親族が会社を経営しているケースや、身近に起業した方がいる、スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクに憧れ事業を興してみたいと思った方もいるだろう。講演会や座談会、海外研修などこうした機会を提供することが必要である。
注意点としては、低めのロールモデルを示さない事である。圧倒的に自分を否定されるぐらいの経験が人の心に火をつけ、より一層の高みを目指す人を育てるのではないだろうか。

2-1.起業家が地域に根付くための要素
上述の通り、地域における起業家の源泉との繋がりを持ち、目線を上げるロールモデルの存在を示すことで起業家が生まれてくる仕組みができたとする。それが無かったとしても起業家はそもそも勝手に起業しているが、次の問題は地域から起業家が出て行ってしまう問題に対しどう向き合うかだ。起業家にとっては資金調達と事業提携ができないことが東京または他の地域に出る最大の理由であり、その解決策を提示することが必要である。③資金調達手段としては、得にシードラウンドでリード投資可能なエンジェルやVCの存在が必要となる。地域にこうしたプレイヤーが居ないのであれば、そうした方と一次的に出会う機会を提供することもできる。ポイントとしては、投資の意思決定が可能なクラスのVCを揃えることである。以下に参考となる事例を掲載しておく。

プログラム名 概要 VCとの接点
1 OIHシードアクセラレーションプログラム 大阪市がシード期~スタートアップ期の事業者に対し、適切なメンタリングをはじめ、シードアクセラレーターや大企業等との連携をコーディネートし、事業化を加速するプログラム。 VC20社によるメンタリングの機会をプログラム期間中2回提供
2 沖縄ベンチャーキャピタルサミット
ベンチャーキャピタル向けピッチ会
沖縄県がベンチャー企業スタートアップ支援事業として実施。 VC複数社によるパネルディスカッションとスタートアップによるピッチ機会の提供

出所)ホームページを元に三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

3.まとめ

地域において既存産業の維持や活性化と同様に、ゼロから1を生み出す新たな事業の担い手は重視されるべきものであると思う。デジタライゼーションの進展により、あらゆる既存産業に変化の波が訪れている。人口構造の変化と相まって、今まさに既存産業や社会システム変革の機会が訪れているのである。そして、ここに商機を見出しチャレンジする人が続々と地域から誕生している。今一度個を尊重し、新たな事業を生み出すスタートアップ創出に向けた各地の取組みが求められているのではないだろうか。
チャレンジする人を応援する国でありたい。

※NICTではNICT全国アクセラレータ「起業家甲子園」「起業家万博」を開催しています。
本年度の情報につきましてはホームページをご確認ください。
※弊社は「平成30年度ICTスタートアップ創出モデルの構築」の受託事業者として、地域スタートアップエコシステムの形成に取り組んでいます。

経済政策部
主任研究員
杉原 美智子

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