政策・経営研究39号最終
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環太平洋パートナーシップ(TPP)協定8季刊 政策・経営研究 2016  vol.3国際経済秩序を支えるルールは転換期を迎えている。戦後の国際貿易の中心として多角的貿易体制を規律し推進してきたGATT/WTO体制は、ドーハ開発アジェンダ(ドーハ・ラウンド)の不調により翳りをみせている。これに代わり、二国間・複数国間の地域貿易協定(自由貿易協定(FTA)と関税協定を含む)や国際投資協定(IIA)が急速に拡大し、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定をはじめとする「メガFTA」といわれる巨大市場を包含するFTAが出現しつつある。世界市場を包みこむ経済秩序がGATT/WTOほぼ一色であった時代から、地理的な範囲を変えながら何重にも新たな貿易投資制度が上塗りされてきたのがここ30年ほどの動きといえるが、これから数年の間に、地球上の広範囲をカバーする強力な制度が発効し、地色であったGATT/WTOの色が薄まることになる。秩序の規律の対象に目を向けると、戦後GATTの下では国境を越えて移動する財の中心は専ら物品(モノ)であり、水際での関税と数量制限の撤廃を通じたモノの移動の円滑化が主眼であった。1995年のWTO協定発効にともない、モノに加えて国境を越えるサービスと知的財産が規律の対象となり、自由化交渉もモノとサービスの越境移動について行われることとなった。また、WTOには包括的な規律が存在しない投資については、3,000以上のIIAが世界を網の目のようにカバーしていることに加え、TPPを含むFTAのなかにも投資自由化と投資保護に関する規定が含まれている。このように規律対象の射程を広げてきた国際経済のルールは、近年、デジタル経済への対応を迫られている。インターネット上で国境にかかわりなく展開される経済活動に対して、貿易投資ルールの延長上でいかなる規律を設けるべきかという課題に対し、これまでの存在した通信サービスの自由化や電子商取引に対する関税モラトリアムといった国際的な取決めでは不足であり、これを超えた対応が必要となっている。本稿は、国際貿易・投資ルールのデジタル経済への対応について検討するための素材を提供することを目的とする。そのために、まず、国際貿易・投資ルールの現状を確認したうえで、過渡期にある国際貿易・投資ルールについて提言を行う国際的な有識者会議「E15イニシアティブ」の活動概要に触れ、そのなかのデジタル経済に関する意見書の内容を紹介する。(1)多数国間貿易体制の成立と限界第二次世界大戦の終結前、従来の孤立主義を改めた米国の主導により構想された国際経済秩序は、貿易、為替および投資の自由化を基本とするものであったが、この根底には大戦の原因となったブロック経済に対する強烈な反省があった。当初、国際通貨基金(IMF)や世界銀行と並んで構想された国際貿易機関(ITO)は成立には至らず、紆余曲折を経て、物品貿易の関税を引き下げるための関税交渉を実施し、その成果を実行するために最小限の規定だけが「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)として1947年に発効した。以来50年近くにわたり、GATTは世界貿易体制を担う規律と自由化交渉の場を提供してきた。1960年代までは、鉱工業品の関税引き下げ交渉を通じた貿易の自由化がGATTの機能の中心であったが、1970年代には基準認証や政府調達、補助金といった貿易に関連する国内制度についてのルールが整備されるようになった。さらに、1986年から開始されたウルグアイ・ラウンド交渉では、物品貿易に関連するルールが強化されるとともに、サービス貿易や知的財産権に関する規律が設けられ、自由化交渉の対象も鉱工業品に加えて農産品やサービス貿易へと広がった。ウルグアイ・ラウンド交渉の成果として、1995年1月にWTO協定がGATTを内包して引き継ぐかたちで発効し、正式な国際機関としてWTOが発足した。WTOの発足後20余年が立ち、この間、紛争処理機能の活用により貿易紛争の解決が進んだこと、中国やロシア等の大国を含む新規加盟が進んだこと等により、WTO1はじめに2国際貿易・投資ルールの現状

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