政策・経営研究39号最終
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環太平洋パートナーシップ(TPP)協定28季刊 政策・経営研究 2016  vol.3(2)海外ビジネス環境の改善TPPは、特徴のひとつが貿易・投資に関するルールづくりにあるように、その効果は、関税撤廃等に基づくGDPの押し上げだけにとどまらない。ルールの設定がもたらす効果は、定量的に把握することは困難であり、前述の政府試算においても考慮されていない。しかしながら、ルールが整備され、透明性や予見可能性が高まることは、企業に恩恵をもたらすと考えられる。まず、サービス・投資分野でTPP参加国のうち新興国を中心に規制緩和が進められることから、日本企業にとっては、海外でのビジネスチャンスが拡大することになる。このほか、ビザの発給の迅速化、透明性の向上等も海外でのビジネスの円滑化に寄与するだろう。また、実際に日本企業がISDS条項を用いて進出先の政府を国際仲裁機関に訴えることはほとんどないかもしれないが、こうしたルールが導入されることにより、進出先の政府から不当な扱いを受けるリスクが軽減されることになる。他方、日本はこれまでに締結したEPAにおいても、ISDS条項が盛り込まれたことはあるが、締結相手国から提訴されたことはこれまでない9。こうしたことを考慮すると、ISDS条項の導入により、日本が他のTPP参加国の企業から訴えられる可能性は低いと言えるだろう。知的財産の保護の強化は、日本企業にとって海外でのビジネス環境の改善につながると考えられる。特許庁「2015年度 模倣被害調査報告」によると、日本企業の模倣被害件数は、中国、台湾、韓国、ASEAN諸国といったアジアで多く見られており、日本企業にとってはそれだけビジネス機会が不正に奪われているということになる。アジアでのTPP参加国は現在、マレーシア、シンガポール、ベトナム、ブルネイにとどまっているが、これらの国において知的財産侵害に対する取り締まりが強化されれば、その動きが他のアジア諸国に広がることも考えられる。また、地理的表示(GI)をはじめとする知的財産の保護の強化により、日本のブランド力が維持され、競争力の強化につながると期待される。TPPにより、他のTPP参加国において商標の登録等が行いやすくなることも日本企業にとってはメリットと言えるだろう。(3)産業別に見た影響TPPは、関税の撤廃、非関税分野での自由化等を通じて、さまざまな産業に影響を及ぼすと考えられる。その中で影響が大きいと考えられるのは、農業である。日本の農業は、農業従事者の高齢化等を背景に、生産額は減少傾向にある。こうした中、関税が削減・撤廃され、安価な輸入品との競争が激しくなると、打撃を受けることが懸念される。政府の試算では、TPPの大筋合意を受けて2015年11月に取りまとめられた「総合的なTPP関連政策大綱」に基づき、生産性向上等を目的とする「攻め」と、畜産業を中心とする保護の強化といった「守り」の対策が講じられることが前提となっている。たとえば、米については、安価な輸入米の増加にともない、国内での販売価格の低下を防ぐため、政府が国産米を買い取ることとしている。畜産業については、赤字を補てんする割合を従来よりも高めると同時に、法制化することとしている。こうした政策が実施される結果、主要な品目の生産量はいずれも維持されると試算されている10。しかしながら、関税の削減・撤廃により安価な輸入品が流入し、国内の販売価格が低下すると見込まれることから、生産額は農林水産物全体では、約1,300~2,100億円減少するとされている(図表9)。もっとも、日本政策金融公庫「平成27年度下半期 消費者動向調査」により、消費者の食品の購入に対する意識を見ると、「割高でも国産を選ぶ」と回答した消費者の割合は、米では74.4%であるのに対して、牛肉は59.0%、豚肉は59.8%にとどまる。こうした消費者の意識を考慮すると、安価な牛肉については、需要が国産品から輸入品へシフトする可能性がないとは言い切れないだろう。TPPは、農業に対してマイナスの影響だけをもたらすわけではない。近年、農林水産物の輸出額は円安といった要因も加わって、増加が著しい。日本の農林水産物(アルコール飲料、たばこ、真珠を除く)の輸出相手国に占め

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