政策・経営研究39号最終
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環太平洋パートナーシップ(TPP)協定34季刊 政策・経営研究 2016  vol.3結びつきの強い北米自由貿易協定(以下NAFTA)圏、一定の経済力を誇り、地政学的にもアジア覇権を狙う中国に対する前線基地となり得る日本を取り込みながら加盟国を増やす動きは、まさにアジア大洋州におけるブロック経済の構築の様相を呈している。このような背景からも、アメリカ合衆国は、TPPを中国けん制のための一機能と位置づけていると見ることができるだろう。TPPに対して、アメリカ合衆国主導による中国へのけん制効果としての機能が期待される中、中国はTPPをどのように評価し、対峙しようとしているのであろうか。中国の基本的な戦術としては、表向きはTPPには加盟せずにTPPがもたらす影響を幹極めつつ、水面下でアメリカ合衆国および親米国への対抗軸を形成するための活動を活発化すると見られる。中国の国家発展・改革委員会は、2015年4月に第13次5ヵ年計画編成作業始動記者会見を開催した。その際に、徐林発展計画司長は「アメリカ合衆国が主導するTPP、TTIP1といったハイレベルの自由貿易・投資ルールは、わが国の将来の発展に対して深遠な影響を及ぼす。」と発言していることからも、TPPが中国にもたらす影響を真剣に見極めようとしている姿勢がうかがえる。ただ、TPPを脅威ととらえつつも、当面は習近平政権の権限掌握の一環として国有企業を強化する必要があるため、そもそも国有企業改革を加盟条件のひとつに据えるTPPへの参画は難しい状況にある。加えて、2013年の国際標準化機構(ISO)総会における張暁剛氏の理事長就任等、国際競争ルールでチャイニーズスタンダードの浸透を狙う中国にとって、アメリカ合衆国主導のグローバルスタンダードの競争ルールを受け入れることは本来的には積極的でない側面もある。そのため、TPPによる影響が想定されつつも、TPPと対峙することが不可避な状況下にある中国としては、グローバル覇権を巡る新たな対抗軸の形成に腐心する戦略を採るだろう。その具体的な方策として、TPP締結国との二国間FTA締結によるTPP経済圏の効力の弱体化と、「一帯一路構想」とAIIB設立にともなう世界各国との関係強化が挙げられる。TPP締結国との二国間FTAについては、日中韓FTA交渉や2015年6月のTPP締結国であるオーストラリアや、今後参加を表明している韓国とのFTA締結等が挙げられる。TPPとは経済協定上の検討項目が異なるものの、これらTPP陣営に近い国と新たに経済協定を締結することで、TPPによるブロック経済化の抑制に一定の効果を上げることになるだろう。2014年11月に習近平中国国家主席が提唱した一帯一路構想は、ユーラシアを結ぶシルクロード経済ベルトと、中国、東南アジア、スリランカ、アラビア半島の沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ海上シルクロードの2つの地域で、インフラ整備、貿易促進により一大経済圏を構築しようとする構想である。すでに対象国約60ヵ国の他、ASEAN等当該地域における国際組織も支持を表明する等、中国の内需や投資を基点にさらなる経済発展を図ろうとする国々から一定の期待を持って受け止められている。一帯一路構想のインフラ整備に対する資金についても、習近平中国国家主席が2013年のAPECで提唱したAIIBが2015年12月に発足し、北京とイラクのバクダッドを結ぶ鉄道が初融資先になる等の動向が見られる。このように、インフラ整備に向けた具体的な実績も表れつつある点も、一帯一路構想への期待が高まっている要因と考えられる。アメリカ合衆国は、インド、オーストラリア、フィリピン、ベトナム等と太平洋・大西洋でのシーレーンにおける経済・軍事面での連携を強化し、すでに海上シルクロードでは中国の影響力抑止に向けた活動が活発化している。一方中国は、欧州とすでに中国武漢発の鉄道で自動車・家電等を中心とした貿易拡大が進展しており、さらに鉄道インフラを中心に各国との関係強化を図っていることを鑑みると、まずはアメリカ合衆国および親米国家の影響が及びづらいシルクロード経済ベルトを優先し2中国によるTPPへの加盟可能性

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