政策・経営研究39号最終
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環太平洋パートナーシップ(TPP)協定38季刊 政策・経営研究 2016  vol.3してきた保守党のハーパー政権から自由党のジャスティン・トルドー政権に移行したことで、不透明なTPP交渉過程の棚卸しやパブリックコメントの実施等しかるべき手続きを踏みながらTPPの正式発効の是非を慎重に検討する方向で進んでいる。なお同国は、後述するオーストラリア等農産物輸出国14ヵ国とともに、農産物貿易の自由化を主張する「ケアンズグループ」を構成している。④オーストラリア(同5.4%を構成)カナダと同様ケアンズグループに所属しており、英国との貿易減少後は貿易額の大きい国を中心に二国間FTAを推進、主要輸出品である農作物を中心に徹底した関税撤廃戦略を採る国でも知られる。すでにアメリカ合衆国と日本とはFTAを締結しており、TPP参画による経済的恩恵は限定的という評価もある。たとえば2016年1月に世界銀行が公表したレポートによれば、オーストラリアの2030年までのGDP押し上げ分が0.7%増に留まると指摘されている。ただ、牛肉等一部品目の関税障壁の緩和によるさらなる輸出拡大が見込まれることは間違いなく、加えてアジアオセアニア地域との政治的・経済的関係の強化に向け、TPPを一手段として活用する方向にあると推察される。⑤メキシコ(同4.6%を構成)NAFTAを通じてTPP締結国内でも最も経済力の大きいアメリカ合衆国との貿易関係を強化してきたが、オーストラリアやニュージーランド等先進国に加え、マレーシアやベトナム等今後経済発展が見込まれる新興国に対して主力の自動車・通信機器を中心に輸出機会が増えることもあり、TPP加盟に対しては経済団体含め総合的に賛成の立場を採っている。主要輸出品である自動車に関しても、域内調達率でおおむね45%以上の水準を維持できたため、メキシコ以外の国から直接アメリカ合衆国に輸出することによる事業機会の損失にも一定の歯止めをかける方向で調整が進んだことも加盟に前向きな要因として挙げられる。それではTPPの正式発効は、国内外における日系企業の企業活動に対してどのような影響を及ぼすのだろうか。もちろん、日系企業の中でも手がけている品目・サービスは各社各様であり、本格的な影響の検証に向けては各社ごとのサプライチェーンの現状を踏まえ、関税率の変化に加え、為替リスクや各国産業政策等を総合的に評価する必要がある。そのため本稿では、個別品目を深堀するのではなく、国内および海外での主要セクターに焦点を当てながら、日系企業の活動に対する影響の可能性について考察を加えていきたい。(1)TPP正式発効による影響の基本的な考え方TPPの正式発効は、TPP域内のすべての企業にとって①クロスボーダーでの事業規模拡大と損失可能性、②サプライチェーンの再構築によるコスト削減可能性の2つの影響要素を持つ。ただ実態としては、企業の活動エリアによってこれらの影響要素を重視する背景は異なると考えている。たとえば日系企業の場合、日本国内では海外輸出にともなう事業規模拡大が期待される一方、米国やメキシコ、オーストラリア等からの安価な品目が輸入されることにより国内競争が激化する可能性がある。そのため日系企業としては、単に事業規模拡大を志向するのみならず、来るべき競争に備えていかにコスト削減を実現できるかもあわせて検討する必要がある。一方海外での活動の場合、日系企業にとってはTPP参加表明国において関税削減効果を最大限享受するための最適な生産拠点の見直しを検討する機会と位置づけることができる。ただし、ベース関税が低い場合は、そもそも為替レートの変動で吸収される場合もあるため、その生産拠点移転効果は慎重に見極める必要がある。以上の基本的な考え方を踏まえ、まず「国内企業活動」と「海外事業活動」に分類し、前者は特に事業規模拡大と損失可能性、後者は生産拠点の再構築という観点を中心にTPP批准の影響可能性について考察する。5TPP正式発効が日系企業活動にもたらす影響可能性

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