政策・経営研究39号最終
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環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が日系企業活動にもたらす影響39(2)国内企業活動への影響可能性TPP正式発効による全品目の貿易自由化率は95%超に上る中、農林水産物についても従来の経済協定以上の関税撤廃の流れに組み込まれることとなった。特に日々の食生活に影響の大きい重要5分野(米、麦、甘味資源作物、牛肉・豚肉、乳製品)は総品目数586品目のうち撤廃品目は174品目に留まり、関税撤廃率は29.7%に抑えられた。品目数の観点だけで見れば関税維持が保たれたようにも見えるが、品目ごとの関税撤廃状況を見ていくと、特に「豚肉」、「乳製品」、「麦」の3分野においては原料分野も含め関税が撤廃され、サプライチェーン全体、ひいては各業界全体に影響を及ぼす可能性があると見ている。これら食品分野の海外輸出に関しては、2010年に経済産業省内にクール・ジャパン室が開設され、以降クールジャパン戦略のもとで日本の食の海外発信強化が図られたり、2014年より農林水産省主導のもとでグローバル・フードバリューチェーン戦略が推進され、当該戦略の中で食のインフラ輸出と日本食の輸出環境の整備が謳われる等、官の支援が追い風となっている。ただし海外輸出に関しては、各社によってマーケティング戦略も異なるため、その具体的な方向性については今後のTPPの動向を見極めつつ、ベストプラクティスを収集・整理しつつ分析・研究を進めていきたいと考えている。そのため本稿では、まず上記3分野における具体的なマイナスの影響可能性について焦点を当てることとしたい。①豚肉分野豚肉分野は、2000年のBSE(牛海綿状脳症)問題や2004年の鳥インフルエンザ問題等の発生による需要が増加する一方、養豚農家の減少にともなう生産量の伸び悩みが続いている。この需給ギャップを埋めるために、従来より海外からの原料調達が行われており、ハム・ソーセージ、ベーコン等の加工品向けとして豚肉が輸入されてきたが、TPP正式発効にともない、輸入豚肉に課せられてきた従課税・重量税が10年目で完全撤廃されることとなった。これが実現すれば安価な豚肉の輸入が進むことになる。食肉加工事業者の観点からは、原料調達コストを引き下げつつ、商品販売価格を維持することでマージン拡大を志向するも、大手加工食品ベンダに規模で太刀打ちできない中堅・中小事業者が輸入豚肉を使用して商品販売価格を値下げする動きが広がれば、「商品販売価格の下落による収益性悪化→食肉加工事業者の輸入豚肉の調達増→ノンブランド豚を中心とした養豚業者の事業縮小・倒産→輸入豚肉への依存拡大」といった収益性悪化のサイクルが生まれるだろう。中でも特にマイナスの影響を受けやすいのは、中堅・中小の食肉加工事業者であろう。総合商社が一部出資するような大手食肉加工事業者の場合、総合商社のネットワークを活用しつつ、調達力を活かし一定程度のコスト削減を図ることが可能である。加えてその資金力をもって、海外の原料調達拠点を新設・強化する戦略も採りうるため、自助努力による調達コストのコントロール余地は大きい。一方、中堅・中小食肉加工事業者の場合は、大手食肉加工事業者と比べて調達コストが割高となり、かつ自前で海外に調達拠点を設けるための体力も限られる傾向にあるため、価格競争が厳しくなる結果、ブランドや技術力等で独自の立ち位置を見出せない限り、業界内での生き残りが難しくなる可能性も出てくるだろう。②乳製品分野乳製品分野は、安定供給と中小酪農家の交渉力強化の図表7 TPPで関税を撤廃する品目数出所:内閣官房TPP政府対策本部

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