政策・経営研究39号最終
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環太平洋パートナーシップ(TPP)協定42季刊 政策・経営研究 2016  vol.3いため、日系企業にとって産業の裾野の広い分野(自動車分野、食品分野、アパレル分野、家電分野)に焦点を当てながら考察を加えていく。①自動車分野自動車分野については、そもそも完成車の関税撤廃率が軒並み1桁前半に留まり、為替の方がサプライチェーンに影響を及ぼす傾向が強い中、完成車メーカーがTPP正式発効をトリガーとして生産拠点をドラスチックに変えることは想定しづらい。そのためサプライヤーがTPP正式発効の影響をどのようにとらえているかが重要な論点となるが、自動車部品分野については部品数が多岐に渡ることに加え、生産拠点の選定要素も関税率以外に多数の要素をもとに検討されることから、ここではTPP正式発効により今後想定されるトレンドに留める。■メキシコへの生産拠点移管・強化メキシコは、1994年よりNAFTAの一員として北米向けの完成車・自動車部品の供給拠点と位置づけられていたことに加え、2000年にEUとFTAを締結、2005年4月に日本との経済連携協定を締結し2015年4月までにほとんどの分野で関税が撤廃されたこと等から、先進国を中心とした巨大市場へのハブとして機能しつつある。サプライヤーにとっては、巨大市場へのアクセスという観点からは魅力的だが、TPPの原産地基準は55%とNAFTAの域内付加価値比率62.5%と比べて低いため、TPP域内で原産地基準を満たすことができればあえて生産拠点をメキシコに設けなくとも関税撤廃の恩典を受けることが可能となる。メキシコの位置づけについては、輸出拠点として事業規模拡大を志向するか、販売拠点として位置づけるかを中長期的な投資回収の観点から見極めることがポイントとなるだろう。■他国への生産拠点移転リスクを踏まえたタイのTPP加盟可能性中国との関係を強めてきたタイも、今後少子高齢化社会を迎え内需が大幅に伸びることが難しく、かつ近隣諸国の経済発展にともなう外資企業の投資に凌ぎを削る中、中国に次ぐ輸出先であるアメリカ合衆国との関係を反故にすることは妥当な判断ではない。仮にTPPへの加盟が滞ると、今後世界の一大輸出拠点としてさらなる脚光を浴びるメキシコに生産拠点を移転もしくは強化する動きが出てきて、結果的に自動車産業でも輸出競争力を失う可能性も秘めている。2016年6月1日には、ソムキット副首相が訪日の際に「新メンバーを受け入れるのであれば、タイはすぐに参加する」と明言し、TPP参加国に協力を求める考えを明らかにした。自動車産業を中心とした輸出産業に依拠している以上、農業従事者に一定の配慮を示しつつも、最終的にはTPPへの参加に傾く可能性は一定程度存在していると考えられる。タイがTPPへの加盟を実現するためには、当然ながらアメリカ合衆国との関係を構築していくかが重要な鍵を握る。タイで2014年5月の軍事クーデターが発生して以降、アメリカ合衆国はタイの軍事政権誕生を批判し、タイでの軍事演習を中止する等、両国間の関係が冷え込みつつあった中、中国がインフラ開発等で急速に影響力を拡大した。そのためアメリカ合衆国は、軍事政権には批判的ながらも、バランスオブパワーの観点から中国へのけん制を目的として再び軍事面を中心にタイとの関係を保ちつつある。2016年2月にタイで開催された多国間共同軍事演習「コブラゴールド」にアメリカ合衆国が参加したことも象徴的な事例だろう。②食品分野食品分野については、前述の通り重点5品目でさえ輸入品の増加による競争激化が予想される分野である。国内企業活動の食品分野では、関税撤廃および官との連携によるマーケティング強化につき取上げたが、ここではコスト削減に焦点を当て、とりわけベトナムの生産拠点としての優位性について取り上げたい。ベトナムでは、従来より日系加工食品メーカーを中心に現地食品加工メーカーへの委託生産が行われてきたが、TPPに正式発効すれば、少なくとも日本-ベトナム間双方で輸入関税が撤廃されることになる。たとえば魚介類では、関税率が10%に上る品目もあり、加工食品も魚介類と同様関税率が二桁に上る品目が存在しており、

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