政策・経営研究39号最終
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環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が日系企業活動にもたらす影響43これら品目の関税があわせて撤廃されれば、二重の関税コスト削減が実現し、日本国内でも価格競争力を強化することが可能となるだろう。また、エビ等一部輸出品についてはアメリカ合衆国政府の反ダンピング措置等により輸出量に制限がかかってきたが、競争ルールの共通化にともない、これら政府当局による障壁も解消されれば、日本以外にアメリカ合衆国等他の市場へのアクセスも容易となると見られる。ベトナムは、メコン地域におけるエビや、ベトナム中部のカツオ等豊富な水産品を誇ることに加え、気候の良いダラットでも、豊田通商等日系企業の技術導入により野菜の生産が盛んになっており、品質の改善が進んでいる点も追い風である。また、ベトナム自身約9,000万人の人口を抱えており、最大都市のホーチミンではすでに1人あたりGDPが5,000USDを突破、近年日本食レストランを含めた近代流通が急速に普及しており、ベトナムで生産した製品・商品を内需向けに展開していくことも好材料となろう。③アパレル分野アパレルに関しても、食品と同様ベトナムが生産拠点の受け皿として機能することが期待される。従来アパレルの一大生産拠点だった中国の近年の急速な賃金の上昇を受け、ベトナムやミャンマー、バングラデシュ等、より低賃金の国に生産拠点がシフトしつつあった。賃金上昇圧力に加え、アパレルの関税率は、品目によっては20-30%に上る等他の品目と比べても高いこともあり、TPPにおけるヤーンフォワード制度の導入もあいまって中国からの生産拠点の移転が加速することが予想されている。すでに台湾、香港等の大手アパレルメーカーもベトナムでの工場投資を拡大している模様である。賃金という観点だけで見れば、ベトナムはミャンマー、バングラデシュには及ばない。しかし縫製等の成熟度に加え、高関税の撤廃によりアメリカ合衆国や日本等の市場にアクセスできるようになれば、高品質の商品の一大輸出拠点として機能することが期待される。ただし、ベトナムはアパレルの上流分野(製糸)を自国で十分に賄うことができないという課題を抱えており、ヤーンフォワード制度を満たすためには今後上流分野の自国調達を強化する必要がある。2015年に伊藤忠商事が大手素材事業者であるVINATEXと資本・業務提携を締結する等、TPPを見越した動きが顕在化しつつあり、今後ベトナム国内で上流から下流まで一貫してアパレル製造機能を担うことが期待されている。④家電分野家電分野については、最終製品を中心にすでに関税が撤廃されている品目が多く、新たな関税撤廃メリットが限定的な分野である。加えて家電分野は携帯電話やテレビ、パソコン等世界的にも生産拠点が中国に集中しており、中国自体が家電製品の一大サプライチェーンとして機能している。以上を鑑みると、TPPが正式発効されても、あえてサプライチェーンや生産拠点の見直しを検討する余地は小さく、自動車分野や食品分野に比べて影響は小さいと考える。これまで、TPPの背景や制度概要を整理しつつ、日系企業活動に対する影響につき主要産業に焦点を当てながら現時点での考察を加えてきた。総括すると、主要産業の中でも、国内外活動の観点から、とりわけ食品分野への影響には特に注視しつつ、状況変化に応じた措置が必要となる。食品分野においては、まず第一に今後の政府支援等も含めながら国内産業にどの程度の影響が生じるか、慎重に見極めることが重要となる。ただし、従来聖域と言われていた重点5品目でも、日本以外の参加国の貿易自由化率が軒並み99%で、日本が同95%超に留まる中、今後の国内手続を進める過程で貿易自由化率を維持できるかは不透明な点もあるだろう。加えて日本ではすでに川上の農業生産人口の減少にともない国内品だけでは需要をまかなえない状況となっていることを鑑みると、今後輸入品への依存度は増加の一途を辿ることは避けられない見通しである。6おわりに

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