政策・経営研究39号最終
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環太平洋パートナーシップ(TPP)協定46季刊 政策・経営研究 2016  vol.3長きにわたる厳しい交渉を経てTPP(環太平洋パートナーシップ)が合意に達し、今年2月に署名された。通常であれば、このあとは参加各国が批准や法規制の改正等、国内の手続きを進めて発効を待つだけのはずだが、最大の参加国である米国の批准が危ぶまれている。共和党候補のトランプ氏、民主党候補のクリントン氏ともにTPPの合意内容に反対を表明しているからだ。仮に米国が批准しなければ、「TPP参加国のGDP合計の85%を占める、少なくとも6ヵ国以上が批准」という発効基準が満たされないことになる。果たしてTPPはきちんと発効するのか。そこに世の中の関心が集まっている。それはそれで大きな問題なのだが、本稿では、なぜTPPが必要なのか、という点をあらためて考えてみたい。成長力が低下し悲観的なムードが広がりやすい日本では、TPPによっていったい輸出はどの程度増えるのか、また輸入品との競合がさらに厳しさを増すのではないか、といった面からTPPの評価が議論されている。しかし、TPPが持つ意義はそうした表面的な事象にとどまるものではない。TPPは、さまざまな面において競争を促進することによって、日本経済を覆う閉塞感を打ち破るきっかけになると期待できる。まず第1章で、リーマンショックを境にした世界経済の変化について整理してみる。世界経済の変化は日本経済にも影響を及ぼす。第2章では、リーマショック後に顕在化してきた日本経済の変化を概観する。第3章では、こうした変化をきちんと理解しないままに、従来型の経済政策が続けられているのではないかという問題意識に立って、経済政策の問題点を考えてみた。以上のような分析を踏まえて、第4章では、日本経済に今必要なことは、従来型の財政・金融政策による景気対策や政府の成長戦略の策定ではなく、競争志向的な発想であることを論じる。最後に第5章では、競争志向的なTPPのスタートを前向きにとらえていくことが、日本経済復活ののろしになることを指摘したい。リーマンショックを境に世界経済にさまざまな変化が現れているが、これらの変化はリーマンショックの前から生じていたと考えられる。リーマンショック前の世界経済のバブルとも言える活況によって隠れていた問題点が、リーマンショック後に一気に顕在化してきたと言った方が適切だろう。(1)世界経済は3%成長へリーマンショックを経て世界経済は減速している。リーマンショック前の数年間の世界経済は5%程度の高い成長を実現していたが、リーマンショック後の成長率はゼロ%から5%に大きく変動し、3%台前半での推移が続いている(図表1)。リーマンショック後しばらくは、ショックが落ち着けばまた5%成長のトレンドに戻るとの見方もあった。しかし、世界経済の潜在的な成長力は徐々に低下していると考えるべきだろう。少子高齢化は日本だけの現象ではなく、世界全体に広がっている。図表2は生産年齢(15~64歳)の人口が全人口に占める割合(生産年齢人口比率)の推移を国別に見たものである。これを見ると、日本はバブルの頂点であった1990年ごろに、米国はリーマンショックを挟んだ2005年~10年の間に、そして中国は2010年ごろにピークをつけて、それぞれ低下してきている。生産年齢人口比率が高まっているということは、生産活動に従事している現役世代の割合が上昇していることを意味しており、成長力は高まりやすい。一方、少子高齢化の進展等により生産年齢人口比率が低下してくると、成長力が弱まってくる。世界経済の成長を引っ張ってきた国々が成長のピークを迎える中で、世界経済の潜在的な成長力は低下してきたと考えられる。にもかかわらず、リーマンショック前に世界経済が高い成長を実現した理由としては、①米国経済が個人消費を中心に堅調な拡大を続け、経常収支赤字を増加させながら輸入を拡大させていたこと、そして②米国に向けて日本や中国等多くの国が輸出を拡大させていたこと、さはじめに1リーマンショックを経て変貌した世界経済

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