政策・経営研究39号最終
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環太平洋パートナーシップ(TPP)協定4季刊 政策・経営研究 2016  vol.3を寄せ集めたもの」と言えるかもしれない。文明は地縁・血縁から解放され、常に都会的であり、特定の地域共同体の束縛を受けないし、その中身は機能的で、明確なロジックで説明できる場合が多い。以上のような説明を受け入れるとすると、文明は放っておくと時間とともに衰退すると考えられるだろう。なぜなら、それは特定の文化との関係が希薄化するため、大地からの養分を吸収することができないからである。どこでも普遍的に通用する価値観は、逆に言えば、特定の地域共同体が持つ独自の強烈なエネルギーとは無縁であるが故に、そのエネルギーを吸収することができず、長期的には衰退していく運命にある。文明が存続し、発展するためには、どこかで大地の養分を吸収する仕掛けを必要とすると言ってもよいだろう。文明がその力を維持し、発展していくには個別文化が持つエネルギーを吸収し続ける必要があるということである。シュペングラーが『西洋の没落』の中で主張したかったことのひとつは、それぞれの地域に根差した個別の文化は大地の栄養を吸収しながら育っていくが、大地から切り離されて、地域性がなくなり、普遍的な文明になってしまったものはもはや大地の養分を吸収することができなくなる。それ故に、それぞれの地域に根差す個別性の強い文化がそのエネルギーを文明につぎ込むというプロセスが必要になる。そうでなければ、やがて文明は没落していく。別言すれば、「文明」には生命が宿っていないから栄養を与え続けなければ枯れていく。それに対して、大地に根差す「文化」は植物が育つように生命力を持ち続けているということになる。したがって、個別文化の役割のひとつは、放っておけば衰退していく文明に生命の息吹を注ぎ続けることなのである。個別の文化を忘れ、普遍的な文明に飲み込まれているだけではやがて文明は衰退していく。逆に、普遍的な文明に飲み込まれ、個別文化を顧みなくなれば、その文化は滅んでいくということになる。たとえば、日本人が「えびすごころ」の虜になって、日本の歴史がこれまで創り上げてきた独自の文化を顧みなければ、やがて日本独自の文化は消滅していく。独自の文化を忘れ、普遍性の高いと思われるその時代時代の文明にかまけているだけでは、その国もしくは民族は衰退していってしまうだろう。本居宣長が「からごころ」という言葉を使って日本人に警告を発した真意はそこにあったのではないだろうか。アメリカでは大統領選挙の年ということで、共和党のトランプ候補と民主党のクリントン候補が激しい論戦を展開しているが、その中のテーマのひとつがTPPの是非である。トランプ氏は自由貿易によってアメリカの製造業が疲弊したとして、TPPには反対している。他方、ヒラリー・クリントン氏も労働組合の支持を取り付けるため、TPPには慎重な姿勢を示している。つまり、どちらの候補が大統領になっても、これまで推進されてきたTPPは今のままでは批准されない公算が大きくなってきたということだ。この動きをどう理解すればよいのだろうか。結論を先取りするならば、アメリカが戦後主導的な役割を果たしてきた自由貿易体制という普遍的ルールは、アメリカ経済の相対的地位の低下によってもはや普遍的ルールとしての地位を維持できなくなってきたと考えられるということである。つまり、アメリカ社会の産業競争力の低下という個別事情が自由貿易思想という普遍的ルールに優先するようになったということである。5TPPをどう考えたらよいのか

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