政策・経営研究39号最終
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なぜTPPが必要なのか65価格を下げないで円安のメリットをフルに享受した方がよいと考えるのは自然だ。結果として円安が進んでも輸出数量は増えないことになる。実際には、円安が進んでも現地の販売価格を下げるという行動はあまりとられてないようだ。円安が進むと円建てで見た輸出金額は増加し、輸出企業の収益が改善し、株価の上昇要因となる。アベノミクス登場後に企業収益、株価にこうした影響が現れたのは間違いない。しかし、これでは実質の経済成長率は高まらない。企業収益の拡大が設備投資の増加につながれば別だが、輸出金額が増えただけでは設備投資を増やす理由にはならない。金額ではなく輸出数量が増えないと実質経済成長率は高まらない。また、輸出数量が増えて工場の稼働率が高まらないと設備投資の増加につながってこない。円安で輸出金額が増えただけでは好循環が働かないということだ。円安になれば輸出が増加するという常識は、円建ての輸出金額で評価すればその通りだが、輸出数量で考えれば通用しないことになる。(4)2%の物価目標に対する疑問デフレ、すなわち持続的な物価の下落が始まったのは、円高が進んだ90年代中頃である。それから20年が経過しようとしているが、この間の経済成長率が低かったこともあって、デフレ=景気低迷というイメージが定着している。そして、デフレを脱却すれば、日本経済は元気になるという考え方が常識として広く認識されている。物価が上昇してインフレ期待が増してくれば、実質金利が低下するので、設備投資や住宅投資にプラスの効果がある。あるいは、価格が下がるまで消費を先延ばししようという行動もなくなるので、個人消費が増加する。こうした、デフレ脱却、あるいはインフレのメリットは実際に起こるのだろうか。アベノミクス登場後に円安が進行し、消費者物価は1%程度上昇した時期があった。そこに8%への消費税率の引き上げがあり、消費者物価の上昇率は3%台に高まった。その後、原油価格が急落したことが影響して、消費者物価は上がらなくなったのだが、物価が上がっていた間に何かプラスの効果が出てきたというわけではない。たしかに、増税の影響を除けば、消費者物価の上昇率は目標の2%に達していたわけではないが、デフレ脱却に意味があるというのであれば、たとえ1%でも物価が上昇してインフレ期待が高まってきたのであれば、それに見合ったプラス効果が出てくるはずだ。実際には、設備投資や住宅投資に消費者物価の上昇がプラスに作用したとは思えない。すでに見てきたように、設備稼働率がリーマンショック前の水準を大きく下回る70%台半ばで推移する中、設備投資の増加は緩やかなペースにとどまったままだ。住宅投資は、消費増税前の駆け込みとその後の反動減で大きく変動したが、消費者物価の変動によって大きく影響を受けたとは考えにくい。それよりも、住宅価格や住宅ローン金利の水準が、住宅投資に与える影響の方が大きいはずだ。個人消費は、物価の上昇がマイナスに効くと考えるのが自然だ。物価の先高観があるから早めに購入するという消費行動は、お金に余裕がある人には当てはまるかもしれないが、多くの人にとっては、物価が上昇したことによる実質所得の目減りが消費を抑制する要因として効いてくる。デフレを脱却すれば経済が元気になるという常識も現実の世界には当てはまらない。経済政策におけるこれまでの常識は通用しなくなっている。円安とインフレを実現することによって経済を活性化しようとするアベノミクスも例外ではなく、期待されていたような効果は出てきていない。効果があるはずの経済政策に実は効果がないということになれば、日本経済の先行きに対する閉塞感が強まってくる。経済政策もこれまでの常識から発想を転換して考えないといけないようだ。(1)財政・金融政策で潜在成長率は上がらない景気に対する不安感が高まってきたり、円高が進んだりすると、当たり前のように財政政策や金融政策による景気対策の必要性が叫ばれてきた。実際にそうした対策4経済政策も発想の転換が必要

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