政策・経営研究39号最終
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環太平洋パートナーシップ(TPP)協定66季刊 政策・経営研究 2016  vol.3がこれまで何度となく打たれてきたが、効果が上がらないどころか、財政赤字の拡大や金融政策の限界といった負の側面が広がっている。公共工事に携わる人が不足しているところに、公共工事を追加しても、人手不足というボトルネックが深刻になるだけだ。財政・金融面からの景気対策は効果があまりない、あったとしても一時的である。こうした認識は以前からあったのだが、それでも景気対策が必要だとされてきた。最近でも、「アベノミクスの第一の矢(大胆な金融緩和)と第二の矢(機動的な財政政策)で時間を稼いでいる間に第三の矢である成長戦略を打ち出す」といった解説がなされていた。もっともらしく聞こえるが、これまで何回時間稼ぎをしてきたことか。アベノミクスでは金融緩和を大胆に進めたが、それは貸出の増加という従来型の効果を期待するというよりも、円安による輸出拡大効果、デフレ脱却による経済活性化を目指したものであった。それでも、前章で見たように、円安やデフレ脱却が日本経済にプラス効果を与えるという考え方には疑問がある。財政政策や金融政策で日本経済の潜在成長力を上げることはできない。一時的に景気を押し上げる効果があるとしても、財政赤字の拡大や資産運用利回りの低下といった社会的コストを払ったうえでのことだ。リーマンショックの時のように経済活動が急速に収縮するような事態が発生したときであれば、そうしたコストを払ったうえで緊急避難的な政策発動の意義が認められるかもしれないが、景気梃子入れと称して毎年のように行うものではない。リーマンショックの時の大型の経済対策は緊急避難的な対策として効果があったとしても、経済が落ち着いてくれば、そのために払ったコストを回収することを考えなければならない。具体的には、悪化した財政構造の立て直しであり、金融政策の正常化に向けた出口に進むことだ。安定的な財源を確保して持続性のある社会保障の充実を図り、同時に将来の世代に付けを残さないように財政赤字の拡大を抑える。そのために、消費税率を10%へ引き上げる。ということで三党が合意したのも、財政構造の再建が必要との認識に立ってのものだ。消費増税の延期は、社会保障制度の基盤をさらに脆弱にするとともに、将来へ負担を先送りしてしまう恐れがある。(2)成長分野を見つけるのは民間企業そもそも、成長戦略なるものは本当に日本経済の成長力を高めることができるのか。内閣が変わるたびに、というよりも最近は毎年のように作成されている感のある成長戦略であるが、いつも期待に始まり失望に終わる。なぜ、成長戦略に対する期待は尽きないのか。それはまず、経済成長率が低下しているからだ。1970年代前半に高度成長が終わって以降、日本の経済成長率はほぼ右肩下がりで低下を続け、最近ではマイナス成長も珍しくはなく、平均すればほぼゼロ成長という状態が続いている。なんとか昔のような高度成長の時代、所得が右肩上がりで増えていた時代に戻りたいという願望を多くの人が持っている。そして、かつての高度成長が政府の経済政策によってもたらされたとの認識が根強いことも、成長戦略に対する期待を強める要因だ。高度成長期には池田内閣の「国民民所得倍増計画」をはじめとしていくつかの経済計画が策定された2。そこでは高い経済成長率が目標とされ、しかもその計画を上回るような高い成長を達成してきた。あたかも、素晴らしい計画のもとで日本の高度成長期が実現したかのように見えるが、それは誤解だ。たしかに、「国民所得倍増計画」は、当時の経済環境をきちんと分析し、10年間で所得を倍増させることは可能だという結論に到達したうえで、それを国民に提示した、という点で高く評価されるべきものだろう。しかし、今の時代に所得倍増計画を提示したからといって、経済成長率が高まるわけではない。経済計画は95年に村山内閣によって策定された「構造改革のための経済社会計画」が最後となる、その後は計画という言葉が使われなくなり。2000年代になると、経済計画に代わるものとして「成長戦略」が策定されるよ

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