政策・経営研究39号最終
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なぜTPPが必要なのか67うになった。しかし、名前が変わっても、政策によって経済成長力を押し上げようという発想から抜け出せない。経済成長を実現するのは政府ではなく、民間セクターである。政府にできることは、民間セクターが活動しやすいような経済環境を整えることだ。「国民所得倍増計画」に学ぶべきは、高度成長期のような高い成長目標や見通しを提示することではなく、今の日本経済を取り巻く環境をしっかり分析するという基本の姿勢だろう。(3)政府がやるべきことそれでは政府がやるべきことは何か。まず、日本経済の現状をしっかり認識することだ。診断が正しくなければ、必要な処方箋は作れない。日本では、少子高齢化という大きな環境変化が進んでおり、日本経済は定常経済とも言える状況になっている。高度成長が終わって以降、国内需要の伸びは徐々に緩やかなものになっている。80年代終わりのバブル景気、2000年頃のITブーム、2000年代中ごろの戦後最長(いざなぎ超え)の景気回復等一時的に経済成長率が高まることはあっても、長期的な低下トレンドからは抜け出していない。経済成長率の低下に合わせて、物価も上がらなくなり、低下することも珍しくなくなってきた。こうした状況に直面して、日本経済は需要不足という病にかかり、デフレに陥ったという診断がなされたわけだが、そう単純ではない。少子高齢化は需要の伸びを抑えると同時に、若年労働力の減少によって供給を抑制する。相変わらず低成長が続いているのに、人手不足が深刻になっているのはこのためだ。日本経済は、これまで続いていた需要不足という問題に加えて、供給不足という新たな問題にも直面するようになってきた。これまで、もっぱら需要不足に対応することを目的に財政支出を拡大し、金融緩和を続けてきた。しかし、供給不足という問題が広がる中で人手不足のために公共工事が円滑に消化できないという問題が出てきている。また、財政赤字の拡大は、今後さらに高齢化が進んで社会保障支出の拡大が予想される中にあって、社会保障制度の持続性、安定的な財源の確保という面で深刻な問題となってくる。一方、金融政策では、発行された長期国債の3分の1を日銀が保有し、さらにマイナス金利まで導入されるという事態に陥り、社会全体で資金の運用が極めて難しくなっている。高齢化社会では老後の生活に備えた資産の蓄積が重要であるが、今の金融政策のもとでは安定的な資産運用先がどんどん失われている。財政政策も金融政策も短期的な景気刺激のために使うのは慎むべきだ。低成長が続いていると言っても、日本経済が危機的状況に陥っているわけではない。少子高齢化がさらに進展する将来のことを考えるのであれば、財政政策は財政構造の健全化をめざし、金融政策は異常な金融緩和からの出口に向かわないといけない。日本経済の先行きに対する見方が悲観論に傾き閉塞感が漂う中で、TPPについても、日本の既存の産業にとって脅威になるかもしれないといったマイナスのイメージでとらえられている。しかし、守りに徹していても成果は出てこない。競争に積極的に参加していくことによって道が開けてくる、と考えるならば、TPPを使って閉塞感を打ち破り、日本経済復活のきっかけにしていくという発想が必要だろう。(1)競争しなければ、成長しないかつてのような高成長は望めない。財政政策も金融政策も目先の成長率を高めるために使うべきではない。政府の成長戦略も期待できない。それでは、日本経済は何もできないまま成長力の低下に甘んじないといけないのか。たしかに、少子高齢化という大きなうねりには抵抗できない面もある。出生率が上がってきたとしても、それが人口構成に影響してくるには数十年単位の時間が必要だ。つまり、潜在的な成長力が低下していることは甘んじて受け入れないといけない面もあるということだ。しかし、競争力を高めていく努力はいつの時代においても必要だ。5なぜTPPが必要なのか

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