政策・経営研究39号最終
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シンクタンク・レポート72季刊 政策・経営研究 2016  vol.3本論では、愛知県名古屋市南部、知多半島全域、三河地域の一部を中心に活動する南医療生活協同組合(以下、南医療生協と略記)の実践を取り上げ、地域において、民により担われ、形作られていく地域福祉の担い手の形成過程をみてゆく。これを通じて、地域社会において困難に直面している人々の暮らしの課題解決に向けて自ら積極的にコミットメントしようと考える地域福祉の担い手をどう育んでいくのか、その際に求められるポイントは何であるのか、分析を行う。近年のわが国における社会的格差と貧困の拡大は、家族と企業に多くを依った日本型セーフティーネットの行き詰まりを示している。不安定雇用の増大や雇用形態の多様化、失業率の向上、世帯構造・家族構成の変化と多様化が進む中で、家族・職場における従来の相互扶助には限界が生まれている。しかし社会の多様化が進む中で、政府部門が社会のニーズにきめ細かく対応することは難しく、また対応はおろかニーズそのものをそもそも把握することが難しいのが現状だと言えよう。こうした社会背景の中で、地域社会において、日々の暮らしの中から自然に当事者のSOSやニーズをつかみ、当事者性を持って課題解決に取り組む地域福祉の担い手を自然な形で増やしていくことは、大変重要な課題である。一方で、このことは、都市部においても地方部においても、大変難しい課題だといえる。高度成長期以降の長期にわたり継続した地方部から都市部への人口移動の結果、現役世代はもちろん引退世帯ですら地域的なつながりは希薄になっている。逆に地方部においてはそもそも人口減少や高齢化率の上昇がかつてないスピードで進み、地域での暮らしを維持することそのものが大変難しい状況にある。こうした中では、地域に住み続けるうえでの日常的な生活課題を、日常的な情報交換の中で、自主的・自発的にどう解決していくか、そしてそうした行動に主体的に取り組む当事者が、どの程度地域に層として存在しているかが問われると言えよう。本論では、こうした問題意識に基づき、南医療生協の実践を取り上げる。論述においては、まず南医療生協の概略として、事業や組織構造の概要、設立における歴史的背景や現在に至るまでの発展経緯を追う。次に、南医療生協において広範な組合員参加による経営が可能となった要因と地域への定着過程についての詳細をみてゆく。これを通じて、地域福祉の担い手が、個別具体的な取り組みの中から、主体性を持ち文字通りの『担い手』としてどのように立ち現われるのか、そのための条件とは何なのかを現実に照らし合わせて分析する。(1)医療生協とは南医療生協に関する論述に入る前に、医療生協について述べておきたい。医療生協とは、「消費生活協同組合法(生協法)」に基づき設立された法人で、医療・福祉事業を中心に活動する生活協同組合を指す。医療生協における一般的な事業としては、病院、診療所、老人保健施設、訪問看護ステーション、通所リハビリ、通所介護、訪問介護、居宅介護支援、高齢者住宅等の医療福祉施設の運営等が挙げられる。日本医療福祉生活協同組合連合会によれば、わが国には2015年3月末現在、109の医療生協が存在し、組合員総数は288万人程度である1。(2)南医療生協の概要1961年に誕生した南医療生協は、名古屋市南区・緑区、東海市、知多市を中心に名古屋市内南東部4区、16市町村を11ブロック、85支部にわけ運営されている。医療だけでなく、介護、保育等も含め56事業所を運営している。2015年度時点で、組合員数は7万9千人。愛知県に在住・在勤するか、所在している組織であれば誰でも組合員になることができる。活動の最小単位は組合員3人以上で構成される“班”で、2015年には1,223班が年間合計1万1千回を超える班会・学習会を開催した。班は、地域の仲間が集まって行う地域班と、趣味等が共通する仲間が地域を超えて1はじめに2事例~南医療生協とは

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