政策・経営研究39号最終
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シンクタンク・レポート78季刊 政策・経営研究 2016  vol.3り毎月4万部が手渡しで配布されている。1名あたりおおむね10~20世帯程度を訪問しているが、配布ルートは各支部の運営委員が考え、組合員の新規加入と脱退を踏まえて常に自主的に見直されている。機関紙の配布率の推移をみてみると、2005年には66.3%だった配布率は、2010年には7割を越え、2015年度には88%を越えている。ii)おたがいさまシートの活用「おたがいさまシート」は、生活面での不安を抱える組合員を地域内で支える仕組みである。独居の高齢者に対しては『健康の友』の配布時に“おたがいさまシート”を同封し、生活面での困りごとを聞き出す。また南医療生協が運営する医療機関を受診した際にもおたがいさまシートが活用される。具体的には、医師や看護師等が患者との会話の中で生活上の懸念を感じた場合、おたがいさまシートに懸念点を記入、地域支え合いセンターを通じて居住地の組合員に協力を求めながら、日常的な生活支援や見守り活動を行う形をとっている。実際に外来診療の予約日に現れなかった独居老人宅に、病棟からの連絡を受け組合員が安否確認に赴いたケース、国際結婚した夫婦の妻が死去した後、外国籍の夫と残された子供の生活支援を地域の組合員が行ったケース、独居高齢世帯のゴミ出しのサポート、買い物のサポート、班会への誘いを通じた孤立化の予防の実例等がある。2015年時点で、おたがいさまシートの活用例は延べ193件に上る。南医療生協では、このような生活支援を「暮らしのネットワークづくり」ととらえている。この取り組みの根底には、顔が見え手が届く範囲でのネットワークを日々の積み重ねにより構築していくことが、組合員の暮らしの安全につながるという考え方がある。またこうした取り組みは、日常を支えるのみならず、災害時も含む緊急支援の際にも活用できると考え、組合員のネットワークづくりを推進しているという。機関紙の配布は組合員が自主的に行っている。おたがいさまシートは、医師・看護師等も含む医療従事者と地域の組合員との連携・協力がなければ活用が難しい。生活圏における日常的な福祉活動と組合員を中心とする担い手づくりが、南医療生協の独自のセーフティーネットの構築を可能にしていると言える。2000年代に入り、地域に必要な医療・福祉サービスを、各種施設建設といったハード整備と、支え合い活動やボランティアに代表されるソフト整備の双方により充実させてきた南医療生協であるが、こうした変化はどのようにして促されてきたのか。その要因を、経営上の外部環境の変化と、南医療生協自身の内的な変化の双方から見てゆきたい。(1)外部環境の変化1)医療経営をめぐる環境変化まず挙げられるのは、診療報酬の算定方法の変更等、医療を生業とする事業体であるゆえに直面した環境変化である。1970年代、わが国の診療報酬制度はオイルショック後の物価上昇にともない大幅な引き上げが行われ、74年には35.0%、76年には9.0%、78年には11.6%という上昇を見せた2。さらに南医療生協の活動エリアのうち名古屋市南部と東海市は、1973年に制定された「公害健康被害の補償等に関する法律」における、大気汚染の影響による疾病が多発した地域(いわゆる第1種指定地域)に該当し、診療報酬が70年代当時は1点20円と倍であった。しかし、南医療生協においてはこうした外部環境にもかかわらず、赤字経営が常態化していた。経営を逼迫させた要因として、剰余や収益に対するアレルギーがあったこと、および人件費が過度に膨らんでいたことという2点があったという。前者について、現在の経営層からは、「当時は“経営”という感覚は皆無だった」、「医療生協は儲けてはいけない」、「協同組合であること、医療生協であることがある種の免罪符のように機能していて、“経営については考えなくてもよい”という雰囲気が漂っていた」という声が聞かれた3。後者について、90年代前半までは、「医療生協として運動を引っ張るの3変化を促した要因~組織の変化と成長がどのように促されてきたか

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