政策・経営研究39号最終
82/99

地域福祉の担い手の形成条件に関する一考察81支部単位での福祉運動を推進しながら事業所の立ち上げにつなげ、その両方の過程を通じて担い手を発掘してゆくというサイクルが確立されていった。さらにはこうした過程を経て生まれた担い手は、施設を建設して活動を終わらせるのではなく、その後も施設運営に積極的に関与したり、機関紙配布やおたがいさまシートの活用等を通じて、地域にセーフティーネットを構築する主体として重要な役割を果たすようになった。ii)組織改革と組合員の意思決定層への登用2点目について、90年代後半から目指す事業と運営のあり方について、理念的な整理が進られてきた。機構改革を進める中で、定款の見直しや再整理、あるいはブロック長会議の新設等地域の声を吸い上げる機会を創出していった。並行して、理事の選任方法も変えていった。それまでは関連する業界団体や地域団体等からの推薦により理事を選ぶ形をとっていたが、結果中高齢の男性が中心となり、政策論議や観念的な議論に時間が割かれ、現実に組合員の暮らしをどう守るかという点に議論が及んでいなかった。そこで支部分割や福祉施設の立ち上げ等、地域で具体的な福祉活動を展開してきた運営委員やブロック長を理事という形で積極的に登用する方針を持った。結果運営委員として地域での支え合い活動を担ってきた組合員、特に中高齢の女性が積極的に意思決定層へ登用されていき、会議時間帯も夜から昼へと徐々に変更されていった。これによって、地域の現場で活動し、活動を積み上げている人を登用することで、地域の協力者を開拓し、組合員の輪を広げることができるとともに、支え合い活動の理念を実践に反映させることが容易になり、組合員の“普通の暮らし”の実感を踏まえた運動が展開できるようになった。2)資金調達面の変化次に挙げられるのは、資金調達における考え方の変化である。前述した新世紀プランでは、介護施設や診療所等の事業所を設立する際には、土地代と建設費の双方を出資金によって賄う方針が明確にされた。介護福祉事業においては、用地および建設資金の30%~100%が確保され、事業所周辺で1,000人から2,000人程度の組合員増が見込まれた地域について、計画を具体化する、という方針が示された。それ以前にも診療所の改修の際、組合員からの増資を募り、改修費用を確保するといった取り組みはあった(1998年、東海市に所在する富木島診療所の改修においては、2,000万円の増資を実行)。しかし、介護福祉事業に関して経営方針として明示的に示されたのは初めてのことであったという。実際、2004年に開業したグループホームなもでは“チャリンコ隊”を組織した組合員が空き家を探し、改修費1,000万円の全額を出資で集めた。2008年の生協のんびり村では、土地は組合員からの廉価の貸与で確保し、建設費の一部として6,000万円の出資金を集めた。こうした実践を踏まえ、南医療生協ではある種の経験則として、1億円以下の建設費であれば全額を、それ以上の場合は必要資金の30%を組合員からの出資でまかなうことが原則とされた。南医療生協としては、自己資本率を常に30%程度に保つことを経営目標としている。また出資金は南医療生協の年度の総予算の20%、余剰金は10%程度とすることが目指されている。2000年代以降、南医療生協では組合員の活動が活発で人数も多い地域から率先して事業所を開設するという方針が明確にされた。しかし、事業所や施設を建設する際、増資なしに数億円を投じると、結果として法人全体の自己資本率を引き下げてしまう。すると、他地域で新たな事業を始めるのが難しくなり、事業の展開可能性を摘むリスクが生まれる。こうしたことから、診療所や介護施設を地域で必要とするならば、組合員自らがそうした要求を実現するために動き、積極的に増資を集めるという方針に切り替えられた。この結果、組合員の運動への参加はいっそう活発になった。地域に立脚したニーズに応えているため、施設開設直後から利用者や収益の見込みも立ちやすくなるという効果も生まれた。この結果、経営陣が中心となり経営をしていた場合に比べて、事業所の黒字化が容易になった。

元のページ 

page 82

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です