政策・経営研究39号最終
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シンクタンク・レポート82季刊 政策・経営研究 2016  vol.3このように、組合員による出資は経営的な意味から見ても大きなアドバンテージとなる。しかしより本質的には、“出資”という行為によって、地域における主体者を作り出すという点が重要である。実際、ヒアリングでは「お金を出すことは主体者を作ることに繋がっている。南医療生協という組織を支えるためではなく、組合員の『暮らし』を支えてくれる主体者を作り出すこと。地域で困っている人がいれば自ら支えにでかけてくれる人を作り出すこと。そうやって地域の隅々で活動してくれる人がいて初めて、組合員の暮らしを支えられる。」という認識が示された6。ここまで、南医療生協における実践を通じて、地域社会において、当事者性を持つ地域福祉の多様な担い手がどのように登場してきたのか、そのプロセスをみてきた。こうした取り組みの経過を踏まえると、地域福祉の担い手が能動性を持って立ち現われる、その条件が少しずつ見えてくるように思われる。1つ目の条件は、“協議の場への参加”である。南医療生協は、医療サービスの提供者としての立ち位置から、地域社会における総合的な福祉サービスの提供主体へと自らを革新させていった。この過程では、支部レベル、ブロックレベルでの話し合いを始め、飛躍人会議等の場づくり等、目標や行動計画を組合員がともに作り上げるというプロセスが豊富に含まれている。つまり、話し合いを重ねることで、当事者意識が芽生え、活動の担い手が再生産されていると言える。2つ目は、“イニシアチブの移譲と意思決定層への登用”である。90年代以前の南医療生協で支配的であった考え方、すなわち運動のけん引役は職員であり、職員によって組合員を組織化し運動を盛り上げるという考え方が、福祉事業への展開過程において、地域の組合員にイニシアチブを譲る方針へと舵が切られた。組織経営においては、支部分割により運営委員の数を増やし、中高齢の女性を中心に、地域で福祉活動を積極的に行う組合員を、積極的に理事等の意思決定層に登用していった。結果、医療生協の内部で頻発していたイデオロギー的な論争を排し、地域社会のニーズを経営側として受け止め、事業につなげることが可能となった。3つ目は、“身近な社会課題への気づきを得る機会の創出と、解決に向けた具体的なアクションの積み重ね”である。南医療生協では、福祉事業の展開において、“事業”としてのサービス展開を先行させるのではなく、組合員の生活圏での福祉活動を活発化させることを通じて、組合員自らが身の回りの困りごとやニーズに気づき、支え合いの主体として立ち現われるよう工夫を凝らした。その結果、支部単位・ブロック単位での活動が充実していった。さらに活動が進み、地域内のより深刻なニーズに直面し解決の必要性に対する認識が深まると、その段階で個別の福祉施設の建設へと進めていった。個別の福祉施設の建設においては、土地や建設費を組合員自らが調達することが、組織内である種ルール化・一般化され、当たり前のこととして受け入れられるまでになった。さらにこうした過程を通じて能動性を有する組合員が増えたことで、施設建設という、時限的かつある意味非日常な局面だけではなく、日常的な支えあい活動も充実していった。日常的な支え合い活動を仕組み化する方法として、機関紙の配布やおたがいさまシートの活用等も積極的に行われ、医療と福祉との連携が現実のものとなった。南医療生協の強みは、生活から生まれる要求を、組合員自ら実現している点にある。これについて南医療生協では「要求追求型から要求実現型へ」と表現している(成瀬:2012、大野:2011)。ここでは、要求追求型とは、組織としての南医療生協に個々の組合員が個別に必要なサービスを一方的に要求することが、要求実現型とは、組合員自らが地域社会に必要なサービスを知恵と労力と資金を持ち寄って実現することが含意されている。こうした組合員の自治的な取り組みは、結果として組合員相互のエンパワメントにもつながり、新たな担い手の登場を促している。南医療生協は、病院という限られた空間で医療行為を4むすび

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