政策・経営研究39号最終
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シンクタンク・レポート88季刊 政策・経営研究 2016  vol.3出しても、過去になかったような年金の制度変更の影響を推測することは難しい。少子高齢化の傾向のなかでの年金制度の改変は過去になかったようなことになる可能性がある。したがって仮に専ら年金生活者を対象とする住宅ローンの証券化を試みる場合、われわれは未知のリスク要因を抱えていることになる。そもそもそのような偏りのあるポートフォリオは証券化の対象にしないとの判断もあろうが、簡単に商機を諦めないのが金融であり、今後の年金受給者の増加のなかでこのような商品が開発されるかもしれない。さて上記を踏まえて思い出されるのは、先の金融危機のきっかけとなった米国サブプライム・ローン問題である。サブプライム・ローン/サブプライム・モーゲージとは米国において通常の住宅ローン(プライム・ローン/プライム・モーゲージ)を借りることができない層を対象にして高めの金利が設定された住宅ローンであり、サブプライム・ローン問題とはこのサブプライム・ローンを証券化した証券を多くの投資家や金融機関が保有しているなかで、この証券化商品について信用不安が生じ、これが金融不安につながったとされるものである。したがって、サブプライム・ローン問題に関して検討すべき点はなぜ多くの投資家や金融機関がこのサブプライム・ローンの証券化商品を保有したのかという点と、なぜこの証券化商品が信用不安を起こしたのかの2点であろう。前者については後者の問題である信用不安の可能性を(意識的にもしくは無意識的に)無視して高い利回りを求めたためといえよう。そこで問題は後者に集約されると考え、ここでは後者についてやや詳しく考察する。サブプライム・ローンは通常の住宅ローンであるプライム・ローンを利用できない層向けの商品であり、プライム・ローンに比較して債務不履行リスクが高く、もともとは広く機関投資家が保有するようなものではなかった。ただし低い信用力しかないサブプライム・ローンであっても証券化の手法によりたとえば優先・劣後の構造をつくれば優先部分は高い信用力を持つことができると考えられた。単純化して例を上げれば5%の債務不履行率が本来的であるとされる場合に、劣後15%、優先85%の仕組みを作れば、15%の劣後部分で将来の債務不履行による損失を十分取り込めると考えられるので、85%の優先部分の予想債務不履行率は極めて低くなり高い信用力を持つと判断されたわけである。また2000年代前半の住宅バブルによってこのサムプライム・ローンの信用リスクは2005年頃においては低めに見えていたといえよう。そのなかでサブプライム・ローンは大量に作り出され、これが大量に証券化されて広く金融機関や投資家に販売されたわけである。その後住宅バブルの終焉とともに低めの状態となっていたサブプライム・ローンの住宅バブル崩壊時における本来的な債務不履行リスクが顕現し、サブプライム・ローンを組み込んだ証券化商品の急速な価格の下落、さらには実際に債務不履行が起こったわけである。このサブプライム・ローンの顧客開拓には押し売り的なものがあったとか、顧客の信用力確認が甘かった等の反省があるが、これらの反省とは別にそもそもサブプライム・ローンの証券化の過程に反省すべき点はなかったのだろうか。前章で述べた通り、この部分にも反省すべき点があると考えたい。過去の事象を統計的に分析し、この結果を使って将来の事象を予想して金融商品の仕組みを作り上げることはどのような場合に適切と思われる商品設計が可能なのであろうか。大数の理論を応用した生命保険事業は長年にわたって収益を上げており、確かにある国の死亡率は突然変わらない。ところがサブプライム・ローンにおいてはその統計的に算出された債務不履行率が短期のうちに大きく変化したのである。サブプライム・ローンの証券化が活発化するのはサブプライム・ローン取引が活発化するときである。ではサブプライム・ローン取引が活発化するのはどのようなときであろうか。これは、不動産市況が好調で少々信用力の劣る購入者であっても積極的にサブプライム・ローンを売り込もうとするときであろう。したがって、サブ

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