政策・経営研究39号最終
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証券化を一歩前から考える89プライム・ローンの残高が積みあがり、これを証券化することが活発になるときには、不動産市況が好調で証券化の対象となるサブプライム・ローンのポートフォリオは好調な住宅市況に支えられて低めの債務不履行率を示している可能性が高い。そもそもサブプライム・ローンは借手の予想される収入では債務不履行率が高く、この高い債務不履行率を補うために対象物件の値上がり益によって債務の返済を行うことが期待されていたわけであり、これが成り立つ市況において積極的な販売活動が可能な商品である。人は現状を永遠と勘違いすることがよくある。いかなる状況も需要と供給の均衡点であり、バブルなるものは基本的にないと考える向きもあろう。好況時にはどうしても楽観的・強気な感情に支配されてこれが永続すると考える傾向にある。統計的分析はあくまでも分析の手段であり、この分析結果をどう解釈するかについて解釈者の主観が影響することを排除することは極めて難しい。したがって、証券化の商品設計者が詐欺的な行為を行わなくても、市況の状況に対して強気であれば(そして金融商品の設計者は強気で、ともかく商品を作り上げることを使命と感じることが多いであろう)、このとき分析結果は強気に解釈され、それに従って商品設計されるであろう。たとえばバブル進行時にはバブル調整局面のシナリオは当然想定するとしても、バブル崩壊のシナリオを設定することは商品設計者にとっても商品設計者の属する会社にとってもなかなか難しく、したがってバブル崩壊時には「想定外」の債務不履行率が発生することになる。またサブプライム・ローンの証券化商品の問題において、一次証券化商品を集めてこれを再度証券化し、これによって創出された二次証券化商品を集めて再々度証券化し、これによって創出された三次証券化商品をまた証券化するというような、証券化商品を集めてこれをさらに証券化する手法が問題となった。この証券化を繰り返す手法が複雑で投資家には理解しがたい面はあったとしても、証券化がその拠りどころとする統計的考え方に従って整斉と行われている限り、特に不正があったわけではない。証券化の対象になっている資産がサブプライム・ローンという通常では住宅ローンを借りることができない層を対象にした商品であり、したがってサブプライム・ローンのポートフォリオには偏りがあったことであるのは前述の通り。この偏りを一定の前提を置いて対応するリスク緩和手段を講じることになるが、このときこのような同一の偏りをもった商品を集めて二次・三次の証券化を繰り返せばリスク緩和策はどんどん追加されるが、それでも設定された前提を超えた想定外のリスクはある。そもそも、一定の仕組みを作ることはその仕組みの外に想定外を作ることであり、そういう意味では想定外とは想定したくない事象といえなくもない。仕組み商品の設計にはこのような(仕組みを作るときに前提としたことを超える)想定外の事象が必ず付いて回ることをここでは押さえておきたい。証券化の経済的利益のひとつに、リスクの売り捌きがあるとされる。上記のように証券化によって原権利者が完全に原資産に係るリスクから解放されるか否かの問題はあるが、証券化は少なくともかなりの原資産に係るリスクを投資家に分配される仕組みであることは間違いない。たとえば、自動車ローンの場合を考えてみると、たとえばB社が米国で販売促進のために自社製の自動車の購入者にローンを供与した場合、このB社の米国での販売金融に係る貸出残高が巨額になる場合がある。この巨額になった貸出のポートフォリオをB社が自身で抱えるよりも、これを証券化し、このリスクを理解する投資家に販売する方が、全体としてリスクが分散され、社会全体にとってはよい状況となるとの考え方がある。IMFは2006年の報告書で、“There is growing recognition that the dispersion of credit risk by banks to a broader 3リスクの売り捌き

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