政策・経営研究39号最終
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シンクタンク・レポート90季刊 政策・経営研究 2016  vol.3and more diverse group of investors, rather than warehousing such risk on their balance sheets, has helped to make the banking and overall financial system more resilient.”と述べ3、証券化によるリスクの投資家への分配機能は金融制度の耐性向上に資するとの考えを示している。この2年後の2008年にサブプライム・ローンの証券化商品の問題を契機に金融危機が発生したわけで、この2006年のIMFの意見は謬見との見方が多い。しかし、特定の金融機関や金融会社がその資産のなかにリスクを積み上げるよりも、これを投資家に売り捌いてリスクの保有者を分散させる方が、金融システム全体の耐性を向上させるとの議論は一見正しいように思える。それでは、サブプライム・ローン問題の場合はどこが違っていたのであろうか。サブプライム・ローンに関していえば、前述の通りそもそも通常の住宅ローンを借りることができない人たちを対象にし、多くの場合不動産価格の上昇益によって借入を中途返済することを予定しており、不動産市況が急激に悪化した場合には返済が滞る可能性が高いものであった。これの証券化に際しては、当然ストレスをかけて少々の市況の悪化に耐えられるだけの保全策がとられていたわけであるが、問題のひとつは検討対象の事象をどのように想定しこれにどの程度ストレスをかけたかである。証券化は金融商品である以上、一定の経済的利益を生み出す必要があり、たとえば10年に一度の事態にまで可能性を広げて商品の期待収益を吹き飛ばすような対策をとることは難しいし、また10年に一度の事態か否かの判断も前提の設定のやり方によって異なる場合があろう。稀であると判断される事態の可能性を想定外と呼べばそうであろうが、これは実は想定可能であるが金融商品の設計上は想定したくない事態である場合が多いと考える。換言すると証券化商品の設計者は金融商品であることによって求められる経済合理性を理由に仕組みの構築の際に、想定外のことがあることを想定しながらも、これを割り切ることによって済ましてしまっていたのである。また投資家は投資家で商品内容の分析・検討をどこかの段階で切り上げて投資決定を行ったのである。証券化はロケットを火星に到達させるのとは違い、ほとんどすべてのリスクの可能性を考えてこれに関して対応を行うことはありえない。もちろんロケットの打ち上げであっても、すべてのリスクの検討とそれへの対応を考える場合、いつまでたってもロケットが打ち上がらないわけであり、ロケットの設計者・作成者・運行者もなんらかの割り切りのうえで行動しているわけであるが、証券化の場合には、ロケットの場合より時間的かつ金銭的制約があり、関係者が経済合理性の成り立つどこかの時点で割り切りを行って商品設計・作成を終了させ販売活動に移る必要がある。また投資家も無限に投資商品の内容を検討するわけにもいかず、どこかで割り切って投資をする・しないを決定する必要がある。なお金融商品の例でいえば仕組み商品だけでなく、もちろん通常の金融商品にも割り切りはある。たとえば、無担保・無保証の社債の場合を考えてみると、一見発行体である会社は一個の物のように思われ信用力は所与のように感じられる。しかし会社は証券化の仕組み以上に複雑な仕組みの組み合わせによってなっており、一個の物というわけではない。たとえば会社の企業統治の仕組みさえも会社の信用力に影響を及ぼす可能性がある。したがって、発行体である会社はその信用力の向上のために無限の努力をすることが可能であるが、無限の努力は会社の経済合理性から許されるものではなく、会社はどこかでこれを割り切る必要がある。また社債の投資家も発行体である会社の信用分析をとことん追究することは、投資判断の迅速性や経済合理性から許されるものではなく、どこかで割り切る必要がある。若干余談になるが、割り切りとリスクに関して二点追加しておきたい;(イ)証券化商品のような仕組み商品の場合には、この割り切りが見えやすい。繰り返しになるが、証券化の設計者はどこかで割り切りを行わないと商品が完成しない。

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