政策・経営研究39号最終
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証券化を一歩前から考える91投資家はその分析をどこかで割り切らないと投資できない。金融商品の設計・分析において、シナリオを無限に設定するわけにもいかないので、シナリオの選定において割り切りが必要であり、この割り切られたシナリオのなかで仕組みが設計され、投資家によって分析されている。もちろん、商品設計者と投資家で設定するシナリオが異なることがあり、これは投資家が投資を行わないとの決定をする背景のひとつとなる。ちなみに金融商品における金融商品の設計者・販売者と投資家の間の情報の非対称性の問題は、特にプロの投資家の場合には、情報の非対称性の問題とされるものが実は割り切りにおけるシナリオの相違という側面がある場合も多いのではないだろうか。(ロ)証券化商品のような仕組み商品の場合、仕組みとその構築にあたっての割り切りが見えやすいということがある。ちなみにこの割り切りが見えやすいことによって、仕組み商品は通常の金融商品よりも同じ予想債務不履行率を示す場合にでも、リスクが高いとみなされ投資家に販売する際に仕組みプレミアムとも呼ばれる割り増しの金利を加える必要がある。ただ前述の通り会社は仕組みと割り切りの塊であり、この会社の信用に依拠する普通社債に通常は仕組みリスクを認識しないことは奇妙なことともいえよう。さてこのような割り切りの議論を踏まえると、リスクを特定の金融機関や金融会社に集中させるより広く投資家にリスクを分散保有させる方が金融制度全体の耐性が増すことは、一義的には正しいが、分散させるリスクはどのように分析され、どのように割り切られているのかを売り捌きの前に検討することは重要であることが分かる。割り切りによって検討することを省略したリスクがあることを考えもしないで、これを多くの投資家に分散させるのは危険である。割り切りの外は想定外と呼ばれるが、割り切りをどこで行うかは通常は想定可能事項である。サブプライム・ローンの証券化の問題発生原因は、想定外の不動産市況の悪化であったとされるが、商品設計の段階でどこまで不動産市況の悪化を織り込むかは決め事である。サブプライム・ローンのリスクの売り捌きに関する教訓は、言葉としては矛盾に聞こえるが、想定外のことをまったく想定せずに、リスクを分散させることは危険であるということになると思う。信用格付とは、各企業の負債返済能力を格付会社が判断して行うものであり、企業は資本市場から資金調達を行う際、通常格付会社から投資適格以上の格付を取得していることが投資家対策上望ましいとされる。たとえば、米国の格付会社である、スタンダード・アンド・プアーズ社(S&P)の長期債務格付は最高のAAAから最低のDまでの段階に分かれており、一般にはBBB-以上の格付を投資適格と称し、BB+以下を投資非適格と称している。先に述べたような5%の債務不履行率の予想に対して15%の保証や劣後を設定することによって債務不履行リスクの緩和を図るような証券化における仕組みの妥当性は一般の投資家には分かりにくく、また自らの検証が難しいことから、通常の社債の場合以上に証券化商品の場合には格付会社によって付される信用格付が投資家によって重宝なものとなることが多い。格付会社による信用格付は前世紀に米国において鉄道会社がその設備投資資金を調達するために社債を発行した際に、この鉄道会社の発行する社債の信用力を投資家に分かりやすく説明する事業として始まったとされている。投資家には分かりにくい信用リスクを分かりやすく投資家に説明することを業として継続しているわけである。さて、先年のサブプライム・ローン問題においては、いくつか格付会社の問題が指摘されている。たとえば、証券化商品への格付が格付会社の大きな収益源であったことから格付が甘めになった懸念がある(ただし格付会社は発行体から手数料を得て格付を付与するという業務形態であり、そもそも手数料を払う先に厳しい評価をできるのかとの問題は過去からある)。さらに証券化商品の4信用格付

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