政策・経営研究43号最終
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日本経済の中期展望34季刊 政策・経営研究 2017  vol.3ベンチャーであるフィンテック企業と既存の銀行が協働しているケースが多い。たとえばフィンテック企業としてよく取り上げられる「Paypal(ペイパル)」の創業は1998年であり、もう20年近くになる歴史ある会社である。フィンテックの金融サービスは、これまでの金融サービスにIT技術を使って改善・効率化したものと言える。(2)カード・現金・小切手の代替サービスが多いフィンテック企業の決済サービス特にモバイル決済等がそうであるが、典型例として取り上げられるフィンテック企業による決済サービスは少額決済が多い。そうした少額の支払いは、これまでは現金やカード、欧米では小切手で支払われる。したがって、フィンテック企業の決済サービスは、必ずしも銀行の決済サービスを浸食するものとは言い難い。(3)“個人向け”が多いフィンテック・・・銀行にとっては実質的に新分野フィンテックの金融サービスは、インターネットを通じたものが多いため、個人間の取引が主である。こうしたことが、フィンテック企業と銀行が協働する背景にある。実は日本の大半の銀行がそうであるが、ビジネスの中心は法人である。預金や貸出も法人が多くを占め、決済や送金についても、BtoC(法人・個人間)ないしはBtoB(法人間)が大半であり、かつ決済・送金で手数料を支払う被仕向けの大半は法人である。もちろん銀行が個人口座を持っていることが法人取引上も重要であるが、法人取引においてメインバンクの地位を獲得することは、預金・貸出のみならず、預金・貸出シェア以上の決済・送金におけるシェアを獲得するため重要性が増す。つまり、これまで日本の銀行の競争力の源泉は法人取引であり、法人顧客を多く獲得することで収益の向上に結びついた。したがって、個人取引、特に、富裕層ではない一般個人顧客の取引が、フィンテック企業との協働を通じ、コアビジネスとして成長するのであれば、銀行にとってメリットが大きいのである。(4)影響の大きい低金利・マイナス金利・・・奪われる収益源低金利・マイナス金利は、フィンテックに甚大な影響を及ぼしている。実は、特に決済・送金関連ビジネスにおける主な収益源として、手数料収入以上に銀行の普通預金や当座預金にあたる滞留資金の運用益が重要ということである。決済や送金にあたって関連資金が短期間ではあるが業者に止まるため、そうした資金を短期間運用することにより運用益が生じるが、その運用益は手数料収入を上回る。実際、シティグループの決済部門の収益の約6割はこうした資金収益が占める。こうした運用益は、金利が高ければ高いほど収益が発生するため、手数料の引き下げ余地も出てくる。しかし、低金利・マイナス金利は、滞留資金からは逆にコストが発生し、手数料を引き下げるどころか引き上げる要因として働くのである。現在のマイナス金利環境は、フィンテック企業にとっては好ましくない環境にある。(5)安心・安全・安定性の問題・・・特に法人個人については、その嗜好に合わせて、金融サービスを選ぶため、多少の安心や安全、安定性に欠けたとしても、興味本位に新しい金融サービスを活用することは考えられる。しかし、法人はそうはいかない。特に金融サービスの利用を大きく変更する場合、組織として機関決定せねばならないため、基本的に保守的なスタンスとなりやすく、安心・安全・安定性を欠く金融サービスへの変更は難しくなる。長い目で見て時代が変われば、シフトしてゆくことも考えられるが、個人と比べればゆっくりしたペースでのシフトとなろう。(6)膨大なコストがかかる厳しい法規制への準拠銀行の決済は、これまでも社会インフラとしての使命を担い責任を負っている。そのため、銀行法の制定・整備により厳しい規制が課され、これを遵守することが求められている。これだけでも膨大なコストをシステム的にも人的にもかけてきた。加えて、近年世界的にマネーロンダリング対策等の厳しい規制が導入されており、こうした規制への準拠やシステム対応のためにも莫大なコ

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