政策・経営研究43号最終
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日本経済の中期展望36季刊 政策・経営研究 2017  vol.3高度な偽造防止技術により厳重に保護されていることに加え、現状ではマイナス金利導入という金融経済情勢の影響もあるが、消費者にとっての現金の最大の魅力は“匿名性”である。この匿名性は、フィンテックが導入されてしまうと失われる。したがって消費者の抵抗も相当強いであろう。日本国内でフィンテックを導入するには、こうした消費者からの反発は避けられず、フィンテック推進の大きな障害となると思われる。(9)具体的なサービスの内容・質が問われているフィンテック最近は、フィンテックと言えばなんでももてはやされた時期は過ぎ去り、顧客にとっての利便性の向上等、具体的なサービスの内容や質が問われる段階に移行している。たとえば、すでに存在する金融サービスであっても質の向上のため、これまで金融機関が注力してこなかったUI(User Interfaceの略。ユーザーが目に触れる部分。スマートフォンの場合見ている画面のこと。)/UX(User Experienceの略。ユーザーが製品・サービスを通じて得た体験。スマートフォンの場合使っている体験)の改善にITベンチャーと協働で取り組むケースが、ネットバンキングを中心にふえている。もちろん、こうした取り組みが金融サービスの革新へと結びつくかどうかは分からない。しかし、多数試みられているこうした取り組みのいくつかが実を結ぶ可能性は否定できず、そうした場合、金融機関を劇的に変革する原動力となろう。(10)フィンテック以上に影響の大きい銀行のクラウドサービス利用実は、フィンテック以上に大きな影響を与える可能性を秘めた動きが始まっている。三菱UFJフィナンシャル・グループは、費用を抑えながら最新技術でかつ短期間でのシステム開発を行うためクラウドを選択し、2017年1月クラウドサービス最大手の米アマゾンウェブサービスと契約した。銀行のITシステムは、自社保有のメインフレーム(大型汎用)・コンピューター上で運用する“重い”基幹系・勘定系システムが中心であるが、近年これに加えて、市場や業務に関わるシステムの負荷も業務内容の多様化やフィンテックの普及で急増し、IT投資負担が高まってきた。これに対し、このクラウドサービスの活用により、数百億円単位のコスト削減は可能になるだろう。もちろん、どの程度クラウドサービス活用が可能なのか、現時点では分からない。ただクラウドサービスに対する銀行システムの聖域はないと考えられるため、すべてのシステムが検討対象になりうる。相当数のシステムがクラウドサービス活用可能となった場合、銀行のITコスト削減のみならず、ビジネスモデル全体を変革させるインパクトを持つだろう。こうした銀行のクラウドサービス利用の行方が、ITベンダーに与える影響は甚大であろう。【注】12014年に、東京を拠点とするビットコイン交換取引所であるマウントゴックスにおいて、顧客のビットコインを横領したとして代表者が逮捕された事件。2欧州では、EU決済サービス指令で、決済関連業者に登録制を導入し、銀行に登録業者へのシステム開放義務を課すことで、各業者の決済システムへの参入・撤退を容易にしている。

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