政策・経営研究43号最終
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経営視点で取り組む「真の健康経営」に向けて49近年、従業員の健康投資によって企業競争力・企業価値向上を実現する経営スタイルとして「健康経営」が注目されている(健康経営®はNPO法人健康経営研究会の登録商標)。健康経営とは、従業員の健康こそが重要な経営資源であると位置付け、従業員の疾病予防や早期治療に投資することで、結果として医療費抑制や業務生産性向上につながり、企業価値向上を実現する経営スタイルである。健康経営は従業員の健康管理すなわち産業保健と混同されがちだが、両者の大きな違いは、産業保健は従業員の健康対策の実施(健康診断・保健指導等)にとどまるのに対して、健康経営はその結果、なんらかの経営面での成果を得る点である。産業保健に関わる費用(産業医や保健師の人件費や健康診断費等)は福利厚生費(コスト)だが、健康経営では従業員の疾病予防や早期治療のための「健康投資」としてとらえられる。この健康投資によって、従業員が心身ともに活き活きと働くようになり、「投資効果」として業務生産性が向上する。そして健康な従業員がふえれば医療費も抑制され、働きやすい会社として人材定着や雇用にもプラスになり、企業イメージも高まる(図表1)。つまり健康経営は健康投資によってなんらかの経営成果を得る「経営」である。従業員の健康管理と企業経営を結びつけて初めて提唱された概念がRosen(1992)の「ヘルシー・カンパニー」であり、日本に浸透し始めたのは2000年代に入ってからである。その背景にはストレスによる自死や過労死等労働災害の増加や健康保険組合の財政難がある。また高齢化や生活習慣変化にともない糖尿病や高血圧等生活習慣病関連の医療費(慢性期医療)が急増したことで、疾病予防・健康管理へと政策がシフトされ、2008年より特定健診・特定保健指導制度、2014年よりデータヘルス計画、2015年よりストレスチェック義務化等、従業員の疾病予防・健康管理に関する健保組合等保険者1(企業含む)の責任はますます高まっている。近年は病気による欠勤(アブセンティーイズム)だけでなく、出勤していてもうつ状態や体調不良で仕事に身が入っていない状況(プレゼンティーイズム)による労働損失も問題になっている。また多くの企業の中長期的課題は将来的な労働人口減少における人材定着と生産性向上である。そのためにも従業員の健康を重視して、生産性を高める取り組みは必要不可欠である。さらに長時間労働やハラスメント等従業員の心身の健康に配慮しない企業はブラック企業と烙印を押され、企業ブランドが大きく毀損するリスクもある。この健康経営を浸透させるために、経済産業省と東京証券取引所は共同で2015年(平成26年度)より東証上場企業の中から健康経営の取り組みが特に優れた企業図表1 健康投資と投資効果出所:筆者作成1健康経営とは

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