政策・経営研究43号最終
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バスク自治州ビルバオの食文化59機内誌『翼の王国』の2011年5月に「世界一の美食の町は、スペイン・バスクにあった」という記事が掲載された。この記事の中で、「“世界一”のソパ・デ・ぺスカート」が紹介され、食通の間で話題となった(堀越2011)。なお、「ソパ・デ・ぺスカート」とは「魚のスープ」のことであり、この「世界一」のスープを出しているのは、地元の漁業組合が経営するレストランである。筆者もこのレストランを訪問したことがあるが、レストランの主人は「最近、日本人がちらほらと来るようになったが、みんな同じスープを注文する」とぼやいていた。そして、ビルバオ市から車で1時間ほどの距離に、人口あたりのミシュランの星の数が世界一という美食の街として世界的に有名なサン・セバスチャン(San Sebastián)がある。もっとも、ビルバオのシェフたちに言わせると、「サン・セバスチャンは、あまりに観光化されすぎている」とのことである。これは言い換えると、「今ではビルバオの方がサン・セバスチャンよりも食文化の水準が高い」と言う自信の表明なのであろう。ビルバオというと、前述したグッゲンハイム美術館と同館に代表される建築デザインが際立って有名であるが、実は食文化も極めて高水準なのである。実際、従来の美食に関する国際的なアワードにおいては、人口規模の大きい、すなわち飲食店数も多い大都市が選考の中心になる傾向が見られたが、近年においては、中小規模の都市が注目される傾向がみられるとのことであり、その代表的な都市としてビルバオ市があげられている(尾家2017:83-84)。現在、ビルバオおよびバスクの料理は高い評価を獲得しているが、このような高評価を実現できた背景として、ビルバオおよびビスカヤ県の取り組みを指摘することができるので、以下にその概要を紹介したい。スペインの民主化後、1980年代からバスク州においてはワイン畑およびワイナリーの改善が展開されてきた。特に、2002年以降は、ビスカヤ(Bizkaia)県によって、バスク地方を代表する微発泡の白ワイン「チャコリ(Txakoli)」の普及・振興のため、さまざまな施策が展開されている5。たとえば、ビスカヤワイン規制委員会(Kontseilu Arautzailea Txakoli de Bizkaia)によって、チャコリの味覚だけでなく、生産のプロセスも評価して、ビスカヤ・チャコリの品質の認証がなされており、1994年から原産地呼称(Denomination of Origin)が認められている。また、ビスカヤ県主催により、「チャコリ教室」が主に3つのセクターを対象として開催されている。具体的には、ワイナリーや生産者を対象として、ワインの官能分析のトレーニングを実施、代理店やショップを対象として、ワインの保管方法に関する知識やホスピタリティについての講義、消費者を対象として、チャコリに関する基礎知識の提供およびテイスティングを通じたワインの適度な消費の促進が図られている。その他、ビスカヤ県は、農場経営のための革新的なビジネス創出とビジネス支援のためのプログラムを2016年から2019年にかけて、約2,353万€を投資して実施している。同プログラムによって、600件以上の農業関連の企業がスタートアップできる見込みである。一方、ビルバオ市は2014年にUNESCOのクリエイティブ・シティーズ・ネットワークの「デザイン都市」として認定されている。なお、ビルバオ市が対象とする“デザイン”とは、「アート、オーディオ・ビジュアル、デジタル・コンテンツ、広告、ファッション、食文化、グラフィック・デザイン、工芸、インテリア・デザイン、写真、プロダクト・デザイン、およびビデオ・ゲーム」6と、広い分野にわたっており、“食文化”も含まれている点が特徴となっている。図表4 ビスカヤ・チャコリの認証ラベル出所:ビスカヤ県Web Site

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