政策・経営研究43号最終
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シンクタンク・レポート62季刊 政策・経営研究 2017  vol.3この物語は真実かどうか今日となっては不詳であるが、ビルバオの人々が好んで語るエピソードであることは確かである。すなわち、ビルバオの自由と独立に密接に結びついて名物料理バカラオが生まれてきた、という“神話”をビルバオの人々はこよなく愛しているのである。②美食倶楽部「ソシエダ・ガストロノミカ(Sociedad Gastronómica)」スペイン国内においても、バスク地方以外には見られない、極めて興味深い食文化が今日に至るまで継承されている。それは、「ソシエダ・ガストロノミカ(Sociedad Gastronómica)」、バスク語で通称「チョコ(Txoko)」と呼ばれるものであり、日本では「美食倶楽部」と紹介されている。この「ソシエダ・ガストロノミカ」は、会員制であり、基本的に男性のみで食事をつくって楽しむクラブ活動のようなものである。かつては厳格に女人禁制であったようであるが、現在は会員がゲストとして女性を連れてくることは可能であるソシエダが多いとのことである。各ソシエダには、それぞれ定員があり、欠員がでたら希望者の中から審議をして、入会者を選抜する仕組みである。ソシエダの会員になると、お互いの社会的地位は関係ない。たとえば、企業の社長もヒラ社員も同じ会員同士であり、これはまるで日本の漫画『釣りバカ日誌』(作・やまさき十三、画・北見けんいち)における「ハマちゃん」と「スーさん」の関係のようである。中には、ミシュランの星を獲得しているレストランのシェフもソシエダの会員となって、趣味で料理を楽しんでいるケースもある。具体的な施設としては、厨房と食卓、バー・コーナー、倉庫等で構成されるスペースをソシエダとして街中に借りており、ソシエダの会員は、自分たちが使いたい日時に施設をあらかじめ予約して、会員同士でタイムシェアリングして使用している。利用する当日は、厨房の設備と在庫は自由に使うことができる。そして、在庫のワインを飲んだ場合、飲んだ種類と本数を自己申告して、台帳に記載しておき、後日精算となる。会合においては、参加者の全員が役割を担う。たとえば、料理をしない人は給仕やテーブルセッティング等を担当する。給仕はいないので、すべてセルフ・サービスである。ただし、食後の皿等は翌朝に掃除人が片づけてくるので、会員は食べて飲んだ後、片づけをせずにそのままで帰宅することができる。このように極めてユニークである「美食倶楽部」が、バスク地方には多数存在しているのである。この「美食倶楽部」の起源は諸説あるようである。たとえば、「チョコの歴史はサン・セバスチャンで始まった。19世紀後半に『食べて歌う』ラ・フラレルナルが組織され、祭りの取りまとめ役を担ったのが最初といわれる」(菅原2013:109)とのことである。また、19世紀の産業革命時において、「当時、地方からの労働人口が都市に流入し、サン・セバスチャンの旧市街地にあった多くの家庭では、親戚の家族を受け入れるようになった。住宅が狭いため、キッチンに妻が居座ると男性は居場所がない。その居場所のなくなった男性が、外に部屋を借りて集まるようになったのがきっかけ」(高橋2017:44)との説もある。そして、サン・セバスチャンでは、「この街の1階部分は住居に出来ない法律があるため、店かバル、倉庫などにするしかなかった」(ibid.)という背景も指摘されている。さらに、「美食倶楽部」の起源は、「労働者が週末をとも図表6 バカラオを材料とする名物料理ピルビル出所:筆者撮影

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