政策・経営研究43号最終
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シンクタンク・レポート66季刊 政策・経営研究 2017  vol.32006:165)が、これらのネットワークは、「バスクのナショナリストの意識を総合的に増幅および先鋭化することに関して、持続的に重要な役割を得た」(ibid.)のである。そして、「それらの活動の政治的役割は非常に大きかった」(ibid.)と評価されているのである。なお、リピーターが後を絶たない人気のバルBAR BERGARAのオーナーであるパチ氏は、「80年代までにはろくなピンチョスがなかった」(山口2013:41)と発言しているが、逆に言うと、フランコの独裁政権時代には、「ろくなピンチョスがなかった」にもかかわらず、人々は熱心にポテオを繰り返していたことになる。このことも、ポテオが単なる食文化における慣習だけでは説明がつかない傍証となるのではないだろうか。④反権威主義としての「ヌエバ・コッシーナ・バスカ(Nueva Cocina Vasca)」ビルバオの料理、そして単にビルバオだけではなく、バスク全域の料理において、重要な転換点は、1970年代後半に誕生した新しいバスク料理「ヌエバ・コッシーナ・バスカ(Nueva Cocina Vasca)」にある。これは、日本語では「新しいバスク料理」という意味であり、いわゆるフランス料理における「ヌーベル・キュイジーヌ(nouvelle cuisine)」にあたるスペイン語で、その名の通り、「ヌーベル・キュイジーヌ」から大きな影響を受けて誕生したものである。「ヌーベル・キュイジーヌ」とは、1960年代以降のフランスにおける、ポール・ボキューズ(Paul Bocuse)やトロワグロ(Troisgros)、ミシェル・ゲラール(Michel Guerard)といったすぐれたシェフたちによって創作された新しい傾向の料理術のことである。そして、これらの新しいスタイル創作料理に対して、料理評論家のアンリ・ゴー(Henri Gault)とクリスティアン・ミヨ(Christian Millau)の2人は、傾向があることを発見し、この2人によって「ヌーベル・キュイジーヌ」と名付けられたのである(小笠原1998:205-207)。「ヌーベル・キュイジーヌ」の命名者であるゴーとミヨの知名度は、日本ではあまり高くはないようである。そして、レストランのガイドブックというと、ミシュラン社の発行する“Red Guide”が日本では特に有名であるが、フランスで最も強い影響力を持つレストランガイドのひとつとして、「ゴー・ミヨ(Gault et Millau)」をあげることができる。「ゴー・ミヨ」は、その名の通り、上述のゴーとミヨの2人により執筆・編集されたレストラン・ガイドブックなのである。さて、ゴーとミヨによる、「ヌーベル・キュイジーヌ」の特徴を表現する公式とは、以下の10ヵ条である(Gault & Millau1978:16-17)。①無用の複雑さを排する。②調理時間の縮小。蒸すという古代からの調理法が再発見されたことによって、食材には繊細な味が残され、また、消化もずっとよくなった。③市場の料理の尊重。シェフは、その朝選んで購入したものだけを使って料理を作る。④メニュー品目の縮小。料理はずっとすみやかになされ、創造性に富み、より新鮮で、惰性に流れないものとなる。⑤長時間マリネ、野禽獣肉の長期熟成の禁止。⑥あまりにも濃すぎるソースの拒否。⑦地方料理への回帰。ヌーベル・キュイジーヌは家庭料理にこそ、現在の料理に不可欠な単純さがあるとして、これを再評価する。⑧現代の技術革新への興味。⑨食事療法用料理の研究。ただし、味への無関心とは全く別のものである。⑩たえざる創造。新たに創造できるものは幾千とあり、そのうち少なくとも数百種類は注目に値するものである。「ヌーベル・キュイジーヌ」は単なる料理方法の革新であるかのように言及されることが多いが、実際にはルールの革新を通じた反権威主義の運動であり、アイデンティティの再構築のための運動でもあったとする説があ

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