政策・経営研究47号最終
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デフレとの20年戦争を終わらせよう43費者物価が2%で止まる保証はない。慎重に実験している時に効果がないということが分かってきたのにもかかわらず、止めることができない大胆な実験に移行してしまったということもできよう。一方、この大胆な実験は2年で成果を出すことを前提にしており、長期戦になることを想定していなかった。同時に、2年間で成果が出なかったから実験を止めるということでもなかった。デフレとの戦いが膠着状態になるにつれて、実験の規模を拡大したり、新たな実験に取り組んだりすることになった(図表6)。実験が始まった当初は、金融緩和も影響した円安によって輸入物価が上昇し、消費者物価も上がってきた。しかし、マネタリーベースの拡大が2%の物価目標を実現するというロジックに問題があったことに加え、14年4月の消費増税後に景気が調整局面に入ったことや、同年後半には原油価格が急落してきたこと等が影響して、物価上昇の勢いは後退してきた。長期戦に対する備えもなく、うまくいかなかった場合の退却の覚悟もないまま、デフレとの戦いは戦線が拡大していく。日銀は、同年10月の金融政策決定会合で「量的・質的金融緩和」の拡大を決め、マネタリーベースと日銀保有の長期国債残高の増加ペースがどちらも年間約80兆円に引き上げられた。さらに、4つ目の異次元の要素が加わってきた。「④マイナス金利政策の導入」である。16年1月に突如「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入が決まった。これは、マネタリーベースと日銀保有の長期国債残高の増加ペースは変更せず、日銀当座預金の一部に-0.1%というマイナス金利を適用するというものであったお金を預かった側、あるいは借りた側が金利を払い、預けた側、貸した側が金利を受け取るというのが金融の原則である。この原則を否定して、金融政策を運営するという意味において異次元の金融緩和であった。マイナス金利を受けてイールドカーブ全体で金利が低下し、10年国債の利回りですらマイナスになってしまった。異次元緩和による戦線の拡大はさまざまな問題をもたらした。まず、安心安全な運用手段がなくなった。高齢化社会が進展し老後の備えが重要になる中でこれは大きな問題だ。金融機関は、資産運用が難しくなることに加え、リスクに見合ったプレミアムを取って貸付けを行うことができなくなり、収益環境が急速に悪化した。また、資金を調達する側は、ほとんどゼロコストで資金調達が可能になり、ビジネスのリスク管理が甘くなる恐れが出てきた。最大の資金調達者は政府である。借金が膨らみ国債を増発しても、利払い負担が膨らまないのでは、財政構造を改善しようというインセンティブがわいてこない。(1)「金融緩和強化」という名の戦線不拡大方針デフレとの戦いは戦線がどんどん広がり、異次元の要素を増しながら、終わりの見えないドロ沼の戦いとなってきた。16年9月に導入された「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、金融緩和強化のための新しい枠組みと銘打っていたが、実際は、戦線が拡大しすぎて兵站が枯渇したデフレとの戦いの態勢立て直しを目指したものと言える。この新しい枠組みのひとつ目の柱である「イールドカーブ・コントロール」は、-0.1%の政策金利に加えて、10年物国債金利を0%程度で推移するように促すことによって、長短金利の操作を行うものであり、極端な金利低下を防ぐ意図があった。長期国債の買入れは10年債金利を0%程度に推移させるために行うものとなり、マネタリーベース残高と日銀保有の長期国債残高を年間約80兆円のペースで増加させるという量の目標はなくなった4。新しい枠組みのもうひとつの柱である「オーバーシュート型コミットメント」では、「消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の『物価安定の目標』を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」ことを約束した。これを裏読みすると、「マネタリーベース残高の拡大方針が維持されているのであれば、マネタリーベース4新しい枠組みが目指した戦線不拡大方針

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