■官民協働事業の更なる広がりと期待の増加官民協働事業が引き続き広がりを見せています。これは単に案件の数だけではなく、対象とする分野・施設や実施主体となる地方公共団体等の規模、案件に関心を示し、また実際に参画する民間企業等、様々な観点で実感される傾向と言えます。国の様々な支援策や類似事例を通じたノウハウ等の蓄積、優先的検討規定も踏まえた構想の初期段階で官民協働事業の適用可能性を考えるプロセスの普及等がこれらの広がりの要因になっていると考えます。今後、更なる人口減少等に伴い、地方公共団体等では財政、人材共に一層厳しさを増すことが想定される中、民間事業者の創意工夫と関与拡大による効率的な公共サービスの提供には、更なる期待が寄せられることと思われます。■事業運営上注意が必要な案件も存在しかし、官民協働事業は課題解決の万能薬ではありません。「難しい」案件は民間事業者にとっても難しく、期待先行で事業条件等の設定を誤ると、当初の目論見通りの事業効果が発揮されないだけでなく、場合によっては、数年後に事業が立ち行かなくなることも起こりえます。幸い、近年はPFI事業が破綻した例は耳にしませんが、折しも本年5月には、会計検査院の調査結果として国が実施するPFI事業における繰り返しの債務不履行やSPCの財務状況悪化等の事例について報告がなされており、事業運営上注意が必要な案件が少なからず存在していることを示唆しています。■事業条件の変化も事前に考慮し 持続可能性の向上を図る官民協働事業において民間事業者の創意工夫を最大限に引き出すには一定程度の事業期間が必要ですが、先の見通しが立てにくい昨今の状況下では、中長期に渡る事業条件の固定は官民双方にとってリスクの増大となりがちです。従い、事業の前提条件の精査はもちろんのこと、事業期間中のモニタリングによって想定外の変化を適切に捉え、場合によっては事業期間の途中でも必要な変更が可能となる事業の建付けを検討することで、運営の安定度を増し、事業全体の持続可能性の向上が図られるよう心掛けています。官民協働事業の持続可能性向上に向けて公共経営(PPP等民活導入・事業化戦略)平成11年のPFI法施行から20年が経過し、我が国では900件を超えるPFI事業が実施されています。この間、PFI事業をとりまく環境は大きく変化しました。PFI法施行後、数年間の黎明期には、今ではあまり見られない総合商社の代表企業としての参画がありました。参考となる他事例やガイドライン・通達なども少ない中、当時のPFIは、リスクを負って投資する側面が現在よりも強かったと考えられます。その後、PFI事業の導入が進むと、様々な課題が浮き彫りになりました。中でも、自治体によっては、PFI導入是非の検討やPFI事業者の公募・選定に長期間を要し、その間の事務負担も大きいということから、PFIを避けるケースも見られました。それでも、コンサルタント活用の浸透や、内閣府の導入促進策(ガイドライン等で標準的な事業化の進め方や手続き簡易化のポイントを示すなど)により、PFI事業数は増加の一途を辿ります。近年は、事業公募前のサウンディングが普及し、またPFI法改正による公共施設等運営権制度(いわゆるコンセッション方式)を活用する事例も増え、より民間のニーズをふまえ、裁量を与える環境が整ってきました。その分、公募前から民間のニーズを把握し、参画しやすい事業とすることが、国・自治体に求められています。この20年で、民間側は応募や事業実施の経験を重ね、着実に力をつけてきました。豊富な実績を有する大手企業を中心に、PFIの専門チームを持つところも増えてきました。一方、自治体は、先進的なところでも十数件程度の事業数であり、大半が数件程度、中には未だ実績が無いところもあります。担当者の異動もあるため、事業化の際に担当課にPFIの経験者がいないということも少なくありません。そのため、事業化に際して民間と対峙するにあたり、自治体側には、適切なコンサルタントの選定・活用、実施した事業の知見・ノウハウの蓄積、庁内横断的な組織の構築(PFI事業管轄部署など)が求められます。PFI法施行から20年の総括公共経営(PPP等民活導入・事業化戦略)Foresight [ 視 点 ]10グループ長/上席主任研究員本橋 直樹PFI/PPP(官民協働事業)海外都市開発事業化戦略主任研究員上田 義人PFI/PPP(官民協働事業)
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